小説・漫画好きの感想ブログ

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「夢の守り人」上橋菜穂子

 「精霊の守り人」シリーズもこれで三冊目。
 チャグム、バルサの物語を経て,今回はタンダとトロガイの物語。
 夢の世界と現実の世界が折り重なって起こる不思議な物語。前二作も良かったですが,今作もよい出来でした。
 人々に甘くせつない本人が恋焦がれる夢を見させて、夢の世界へと誘う吟遊詩人。彼の歌声を聞いて眠りに落ちたものの中で、現実よりは夢の世界に幸せを感じてしまったものはそのまままどろみ続け、夢の世界の花の養分となる。。。。
 古今東西を問わず、ありがちといえばありがちなパターンですが、そうした世界が自立した意志や目的をもっているわけではなく、そうした生き物で他の次元のそれらとなんらかわりなく生息しているというのがこの「精霊の守り人」シリーズの世界観にマッチしていて、面白かったです。
 寝ている間に見る夢と、現実に願う夢、その狭間と隔たりがもし移動できるものならば、望むならばそのまま夢の世界で幸せに暮らしたいと願うものが多々出て来てもちっとも不思議でない現実は、だからこそ強く現実のリアルとして意味があり、そこで何をするかが自分の現実での立ち位置と指標であり我々の人生の目標になっていくわけですが、そういう事を再認識させてくれる作品です。
 児童文学でありながら、やっばり大人の鑑賞にも十二分に耐える作品で、欠点らしい欠点が見当たりません。シンプルな文体ながらイメージの喚起力も強いし、読み手に想像の幅を与える書き方が好感が持てます。微に入り細に入りの描写をする作品も精緻で好きですが、ファンタジー作品ならこれくらいのゆとりがある方が懐が深く感じられます。

夢の守り人 (新潮文庫)

夢の守り人 (新潮文庫)