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「水滸伝 十四 爪牙の章」 北方謙三著

 もう一冊、同じ中国は中国でも千年近く時代が下った宋の国の物語。こちらも読んだのレビューアップをしていなかったので、挙げておきます。この時代迄下ると、腐敗と堕落はとことんまでいき、下々の生活のいたるところに役人が賄賂と利権を要求してくるので、普通の人々が叛徒としてたつ、あるいは村を捨て山賊になるということが当たり前になってきており、なまなましく消耗戦のような戦争が当たり前になってきます。そんな時代のお話です。

 
 水滸伝 十四 爪牙の章」 北方謙三
 
 
 国と役人の腐敗により、働けども働けども一部の人たちを除いては、普通の暮らしさえままならずどこにも正しさがなくなってしまった世界。コネか財力がなければ、家族の身どころか。自分の命さえ明日の保証はない世界。
 現代日本にどこか通じるところがある、宋の時代。そういう国に対して一握りの男達、そして女達が立ち上がった叛乱が、正面きっての戦争に近い状態にまで拡大してきたのがこの水滸伝の十四巻です。最初はたった数人の男たちが想った国への想い、民草への想いが、叛乱運動になり、今では彼ら梁山泊は、官軍二十万の大軍と正面きっての戦いをしなければならない所まできました。ある意味では、民の理解を得て力がましてきたとも言えるし、逆にある意味では国が本気になって全力を挙げて潰しにきたともいえる状況です。現代戦ではいざ知らず、二十万人の軍が恒常的に戦闘をするとなるといかに中国といえど国が傾くほどの大勝負です。戦費も兵站も全てが今迄にない戦といっていいところまで来ています。
 それを迎え撃つのは、梁山泊の好漢たち。百八の宿命の戦士たちも今では半数近くまで命を落とし、続く戦いの中でこのあともどんどん命を失うことは覚悟の上での戦いですが、彼らは自分たちの国の為に戦います。そして、この巻ではその中でいくつかのロマンスめいた事もあります。軍事組織とはいえ、人と人がいて、いつも命を失うところすれすれで戦っている以上、かえってそういう事は生まれてくるものかも知れません。そして、そういうシチュエーションの中だからこその、大胆かつ率直な女性からのアプローチも、素直にカッコいいものになっています。甘えたりこびたりではなく、一人の人間として真っ正面からぶつかっていく彼ら彼女らの恋は短い生だからこそ燃え尽くそうとする気持ちが乗って、激しいものです。
 とはいえ、状況はわずか4万(そのうちに兵として精悍なのはまだまだ3万弱)の彼らに対して、二十万の官軍と有能な将軍たちが各地で襲いかかるという絶望的なもの。事実、この巻でも長らく活躍してきた梁山泊の主要メンバーの一人がまた一人散っていきます。官軍にとっては一人、十人、百人が死のうとも対して痛手ではないですが、梁山泊のメンバーはその一人一人が極めて痛い戦力ダウン。ある意味消耗戦こそは官軍の望むところ。大きな起死回生の策もないままに、消耗戦に引きずり込まれていく梁山泊。
 絶望的な状況から彼らが残り数巻でどう巻き返すのか、どう生きるのか、どう死んでいくのか。
 ますます目が話せない状況です。
 原作から大きく違ってきた水滸伝は、どういう結末になるのか予測がつきません。ただただ毎月の終わりの発売が待ち遠しい限りです。
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水滸伝 14 爪牙の章  (集英社文庫 き 3-57)

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