小説・漫画好きの感想ブログ

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「ヨコハマ買い出し紀行」 芦奈野ひとし

 ニュースを見ていたら、外山恒一氏が鹿児島地裁での裁判で検察の求刑の8倍の罰金判決を出したというのが出て来ました。外山恒一氏といえば、東京都知事選挙に出馬していたスキンヘッドの面白い左翼活動家の人物。ニコニコ動画とかYOU TUBEでいっときやたらと出ていた人でした。政見放送が非常にユニークでかわっていて、どこまで本気でどこまでシャレでどこまでが賑やかしなのかわからなかった人でしたが、今回のこの裁判結果を見ていると、そういうシャレが通じない世界というのがあるのだなぁと思いました。ふつう裁判というと、検察側の求刑と弁護士側の要望の間で刑期がだいたい決まるものなんで、こういう検察求刑より圧倒的に非常識に思い判決を裁判官が独自に出すというのはなかなか異例でおかしな話ですからね。
 やはり、世の中には左翼だったり活動家だったりすると、それが本当の意味でのテロ組織につながっていたり危険人物でなくてもあからさまな迫害を受けることもあるのですね。いや、笑い話にみえて結構怖いニュースでした。
 あ、ちなみにどんな罪かというのだけあげておきますと、一方通行の逆走という道交法違反で、検察官の求刑は罰金1万5000円、それに対して裁判所の判決は8倍の12万円の請求ということです。うーん、なんで??
さて。
それはそれとして。今日のマンガ紹介。 

 
 ヨコハマ買い出し紀行』 芦奈野ひとし著 アフタヌーンコミックス

 この漫画、もう既に連載は終了しております。
 しかし、ストーリーが近未来の日常生活を描いた内容だけに、作品の発表から日が経っても内容的に色あせている部分はなくそのまま楽しむことができます。舞台はさきにも書きましたが、近未来の日本の、タイトル通りヨコハマが舞台です。桜木町や野毛あたりもでてきます(このあたりに住んでいたこともあるので変に親近感が湧きました)。
 この世界の中では、地球温暖化によるものか、はたまた語られざるどこかの国の戦争のせいか海水面が非常に上昇しており(作中でもさらに緩やかに上昇しています)、人々は海抜の高いところに集まって暮らしています。昔の都市や街は海中に没し、それらについては改善の余地もなく、人々はそれをそのまま受け入れています。
 当然、地面が減ったということは、耕地面積や経済活動が行われる場所も世界で縮小し、結果的に世界の人口は減り、物資の入手も大変困難になっているようです。その過程で、文明レベルは少し退化し、といいたいところですが、概ね後退したものの、この物語の主人公の一人で喫茶店をきりもりしているアルファと呼ばれる精巧なアンドロイドが存在していたり、地球の周回軌道状を漂う飛行船があったりと極度に混沌とした状態になっています。
 ただ、そういう世界ながら殺伐としているかといえば、そうではなく、むしろ人類の歩みが黄昏にはいった運命をうけいれているのかそこに暮らす人々は穏やかでのんびりゆっくりとした時間を過ごしています。「てろてろ」と表現されるその時間の中で人々は不思議なものや徐々になくなっていく陸地をあるがままに受け入れ暮らしています。若い世代にとってはそれが生まれたときからの自然な形となっているから当然のこととして、かつての姿を知る人々も同様です。
 そのためか、この作品の中では主人公のまわりの時間はあくまでゆっくりとしており、物語としても、何故世界がそうなってしまったのかの謎解きや主人公たちがなにものかと闘ったり、争いに巻き込まれたり、といったような波瀾万丈さとは無縁です。この作品はあくまで、そうした近未来のヨコハマに住む人たちの暮らしや、住人の日常に溶けいって同じ時間を楽しむのが正しい楽しみ方でしょう。絵柄もそれにマッチしていて、のんびりゆったりとしたわりと書き込みの少なめのほわんとした雰囲気のタッチで、作品内容とタッチが見事にあっています。
 読んでいると時間の感覚が曖昧になっていく感じの作品なので、リラックスしたいとき、なんだか気分がささくれているときなんかにコーヒー・紅茶を片手に読むのがおすすめです。ただし、ミルクを入れすぎないように。なぜかは作品を読んでのお楽しみです。

ヨコハマ買い出し紀行 1 (アフタヌーンKC)

ヨコハマ買い出し紀行 1 (アフタヌーンKC)