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「中国の言い分 なぜそこまで強気になるのか? 」 鈴木秀明著 感想

 本年41冊目の紹介本です。
 「中国の言い分」というサーチナ編集主幹の人の本です。
 最近なにかと日本と摩擦の多い中国。その中国の主張は、尖閣諸島の問題にせよ、体操選手などの年齢詐称問題にせよ、レアアース問題にせよ、ノーベル平和賞を与えられた劉暁波への扱いにせよ、人民元問題にせよ、北朝鮮への擁護にせよ、チベット問題にせよ、どうにも日本人からすると首をかしげるものばかりに感じられて仕方がありません。
 しかし、事実関係がどうかはともかく、その不可思議さよりも、どうして中国の言うことはいちいち普通の日本人には納得できかねるのか、そしてどうしてその無理筋に思える主張を堂々と主張してくるのか。そこも気になるところです。
 そんな、何故中国はそんな主張を繰り広げるのか。大まじめに主張してくるのか。ということについて、中国側から見た言い分を解説しているのがこの本です。

 例えば、尖閣問題。
 たびたびここでも取り上げてきた話題ですが、これに対して、日本の主張は首尾一貫して、日清戦争中の1985年1月より日本領土であるとなっています。1884年に福岡の商人の古賀辰四郎が探検隊を送り込み、調査。1885年古賀が日本政府に貸与を申し入れ。日本は沖縄県当局を経由して再三にわたり調査、清国の支配地でないことを確認して、1895年に日本領に編入。国際法上の「無主物先占の権利」(要は誰のものでもないところは、先に領有宣言したものの物となる)によって日本領としたとしています。そして、この後日本は第二次世界大戦に敗れ、尖閣諸島は沖縄とともに米国が支配、その後で返還されたとなっています。
 また、この間、中国は一度も尖閣は自分のものだと言わなかったし、サンフランシスコ条約にも意義をはさまなかった。それが1971年になって、突然、ここは中国の領土であるという風に言い出したのは海底油田の権益のためであり、正当性がないと日本政府は言っています。また反日の思想に毒された武力行使の一環であるともいいます。
 しかし中国からすれば、それこそが大間違いであり、そもそも清王国の頃は西洋列強や日本にいいようにされていて、権利を主張できるような状況ではなかった。また、日本の調査は国際的に発表されたものではない。そして、サンフランシスコ条約には中国はそもそも参加していないので否定もできなかった。またそもそもが国際法上というのは当時の列強が自分たちに都合のいいように作ったルールであり、従う必要がないものである。また、日中友好条約を結ぶときに、ここの問題は棚上げにする=どちらの国もお互いの主張を譲らないままで後生に託すことにしたわけで決着したわけでない。
 というように、あちらにはあちらなりの正当な言い分があるのだというのが本書の大枠です。そして、確かにこれを読んでいくと、日本としての国益から考えると認めない、認めたくない、或いは受け入れがたいという部分もありますが、フェアな目で見ればあちらに言い分があるな、どちらも正しいけれどあちらの方に分があるな、という事も出てきます。
 
 勿論こういうことをいうと、再びまた「おまえは非国民だ」「売国奴だ」「民主党員だ」「在日中国人だ」「在日韓国人だ」とか「左翼」「平和ボケした堕落した日本人だ」などさまざまな罵詈雑言が主に憂国を気取る方々から浴びせかけられることになろうかとは思うのですが、ごく一般的に考えてどちらか一方だけが完全に正しくて、どちらか一方だけが完全に誤っている。あるいは片方だけが正義で、片方だけが純粋に悪であるなんてことはありえないと考えるのがしごくまっとうな話で、そういう意味でいえば、日本人としては日本よりに考えてしまうのは仕方がないこととしても、公平に見る目を失って、一方的な見方のみに傾倒して議論を封殺してしまうことの方が、人間としては極めて危険な状態を招くのではないかと僕は思います。
 最近よく声高に叫ばれる「愛国」「国益」という言葉は確かに人を高揚させたり、正義は我にあるという風に錯覚させやすいものですが、相手の都合なり、真実を隠蔽してまでも自国を有利にするためにはいかなる手段を取るということが、果たして本当の意味で「愛国」であり「国益」にかなうのかというのは僕の中で大いに疑問な部分です。
 
 少し話がずれたので戻しますと、そういう風に、日本の主張に対して、中国なりの主張、あちらから見た言い分というのを併記して書いている本書は、内容がやや薄いという部分を除いては、今のこの時代にちょうどふさわしい本だと思います。勿論、ここに書いてあることの全てが正しくて、中国のほうがより正しいなんてことはありません。そもそもここに書かれていることの100パーセントが正しいと思うこともまた危険です。ただ、へんなナショナリズムに乗せられて、一方的にどちらかだけのスタンスにたった視点から脱却するには、ちょうどよい厚みと読みやすさの本です。
 

中国の言い分 ?なぜそこまで強気になるのか?? (廣済堂新書)

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