「儚い羊たちの祝宴」 米澤穂信著 感想
本年177冊目の紹介本です。
「ボトルネック」「犬はどこだ」「さよなら妖精」「春期限定イチゴタルト事件」「氷菓」「折れた竜骨」などの傑作の多い米澤穂信さんの文庫最新刊です。
「氷菓」の折木奉太郎や「限定」の小鳩くんなどのどちらかというと受け身の主人公たちが事件に巻き込まれていくのが米澤さんの作品のメインストリームだったかと思いましたが、この「儚い羊達の祝宴」はそれとは一線を画する彼にしてみても新しい作風の作品です。
本書の構成は短編連作集なのですが、各編の主人公たちは、いずれもが私立の有名セレブ大学の「バベルの会」という読書サークルに入っているのが共通していて、その読書会に参加しているのは、全員超がつくほどの財閥・大金持ちの子弟達です。
彼、彼女らはたいていが召使いを幾人も抱える家に住まい、それぞれが密かにあやしい趣味や指向、家庭環境や問題を抱えています。その彼・彼女らや召使い達が語り手として物語をすすめていくのですが、読者の共感や感情移入を一切排除するような文体や内容は、どこか不安定な心持ちに読者を誘います。ある意味、昔のゴシックロマンホラー的な正統派の雰囲気さえ漂います。
たぶん、初読の段階で米澤作品と見きることはほぼ不可能だと思うくらい今までとタッチが違います。
(どちらかというと雰囲気だけでいえば、恩田陸の諸作品の秘密学園もののような雰囲気といえば伝わるでしょうか)
それが吉と出ているか凶と出ているかは判断別れるところだと思いますが、個人的には読書サークルに所属している主人公達ということで、会話のはしばしに古今東西の書物ネタや蘊蓄が入ってくるところや伏線になっているところ、及び一番最後の事件だけで読む価値はあったかなと思いました。
各作品に共通ですが、最後の一文や最後の数行でのなにげない一言の裏側にあるものが鳥肌ものの切れ味を示すので、これはこれでありかなと思います。ただし、読み味がいいかというとそんなことはなく、後味は悪いです。ボトルネックほどに悪くはないですが、正直これは肌にあわないという方も多いと思います。苦みのあるミステリでもいいという方だけにおすすめです。
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/06/26
- メディア: 文庫
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