小説・漫画好きの感想ブログ

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「御宿かわせみ14 神かくし」 平岩弓枝著 感想 

 ちょっと時間が経ってしまったので、印象的なところだけ。
 この巻では、主人公の東吾の友人の「宗太郎」と自分に思慕の念を向け続けていた「八重」の祝言が終わり、赤ちゃんが生まれたところが描かれる。ふだんはいかめしく武士然とした人物が祖父となって、初孫のあまりのかわいさにでれでれとしている様など、まさに幸せに一点の曇りもない。ただただ幸せな未来の情景だけがある。
 しかし、同じ巻の中には、生活に疲れた女が、子育ての苦悩をえんえんと愚痴り、最後には入水自殺してしまう話もある。人生なんてそんなものだといってしまえばそれまでなのだし、子供をこいねがってもなかなか生まれず、生まれた途端に子供を失ってしまう親もいる。あれだけは何度見ても直視できずに、かける言葉もない悲惨さであるが、現実にはままそういうこともある。一方、本当に幸せな出産と育児というのも、当たり前にある。それは小説の内部であっても、現実であっても変わらない。
 ただ、同じ単行本の中の話となると、数十分のうちにこの極端な二つの人生を我々読み手は見せられるわけで、落差がかなりきつい。ものすごい落差と、運命による恐怖を感じてしまう。たとえば、自分の実に振り替えたときには、自分がたぶん子供を残さない人生を送るだろう事に、一抹の寂しさとを正直少し感じた。私ごとになるが、今つきあっている女の子は私より一回り半ほども年下だから、別に彼女が今すぐ妊娠・出産してもおかしくないし、あと十年以上はその猶予期間はある。だが、自分の色々な諸条件を考えると、たぶん子供のいる未来の選択肢は可能性としては低いだろうなと思うのだ。
 もちろん、子供は天の授かりものというように、結婚してふっとあっさり出来るのかも知れないし、できればそれはそれで構わない。たぶん、自分はもともとが学童保育の先生などをしており子供は嫌いではないし、塾の先生もしていたから子供にものを教えるのも好きだから、たぶんそこそこのいい父親にはなると思う。でも、その自分というのを考えるときに、ちょっと現実性が薄いなと思わずにはいられない。
 そういう心理が根底にある身でこれを読むと、幸せな結婚・出産の姿に読んでいて顔がほころんだかと思うと、不幸な女性の生に深く同情し、そして、子供がうまれるならば、そのどちらかが(或いはそのいずれもが)必ず訪れることにかなり恐怖を感じてしまった。普段は、そんなことはあまり考えないから、ひょっとしたらそれは入院がもたらしたメンタル的なものだったのかも知れないが、、でもそういうことを考える契機になったのはそうマイナスでもないかな。
珍しく、生々しい書評感想ですが、この本はそんなところで。