「天国はまだ遠く」 瀬尾まいこ著
自殺志願者の女性が辿り着いた最果ての地の民宿。
とにかく暖かい場所、暖かいところにいては自殺の決心が鈍ると特急に乗って最果ての地まで行き、そこからさらにタクシーの運転手に「とりあえず、もっと北に」といって偶然に辿り着いたのがその民宿です。
もちろん、自殺は失敗して(でないとお話は数十ページで終わっちゃいますから)、彼女と民宿の主との不思議な生活が始まり、それを描いたのがこの物語です。
民宿田村は不思議な宿で、主人の田村さんは民宿をやっていた両親が交通事故で亡くなったのを機に田舎にもどってきた人物。大男で、いつもトレーナーにジーンズと無造作なかっこうで、ぼさぼさの頭をしています。民宿をやっているとはいえそれは片手間で、鶏の世話や畑、そちらがメインで、主人公の千鶴が自殺を決意して泊まりにきたというのに、「一泊1000円でいいや」とお金に関しては無頓着きわまる人です。まぁ、お客が一年を通してまったくいないからというのもありますが、そんなような不思議な民宿です。
自殺まで決意していた彼女ですが、あっさり自殺に失敗したあとは死ぬ気もなくなってしまい、毎日,朝起きて外に出て小さな集落を歩き、景色を見、ぼんやりと空を眺めて暮らします。仕事も辞めたし,次にする事も決まってない。何の予定も入っていない毎日。
いっぽう、田村は、毎日何だかだと忙しくしています。彼に連れられて、海に釣にいく千鶴。飲み会に連れて行かれる千鶴。教会に連れていかれる千鶴。絵を描きにいく千鶴。少しずつ千鶴の中で何かが、ほんの少しずつ何かが変わっていきます。
わりとよくある小説なら、千鶴は田舎の暮らしに癒されてそこに住んだり、或いはまた二人があっさりと恋に落ちたりという展開になるのですが、そうならずにある意味たんたんと二人の暮らしを描いてるところが個人的には逆に良かったです。
瀬尾まいこさん独特の雰囲気・世界で、読んだあとにはいつもながら不思議な優しい感じになれます。ちょっとした会話のずれがおかしくて笑ったり、にやっとしたり、佳作です。
かなり短めの短篇なので、映画を一本見るような感じでお楽しみ下さい。
- 作者: 瀬尾まいこ
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/10/30
- メディア: 文庫
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