小説・漫画好きの感想ブログ

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「卵の緒」 瀬尾まいこ著

 「幸福な食卓」の瀬尾まいこさんのデビュー作だそうです。
 主人公の育夫は小学三年生。母親と二人で暮らしています。育夫は近くに住む祖父や祖母と一緒に元気で暮らしていますが、最近一つだけ母に疑いを持ちました。それは、自分は捨て子なのではないか、ということ。そんなおりに学校の先生が「へその緒」というのがあるのを教えてくれたものだから、育夫は、さっそく仕事帰りの母親に「へその緒」を見せてくれとせがむのですが、母親が持ち出して来たのは「卵の殻」。母曰く、「育夫は卵で生んだから、これがその証拠よ」と。いつも前向きで元気でストレートで、息子への愛を隠さない母。そして、その恋人の朝ちゃん。不登校になってからの方が仲良くなった友達。育夫のまわりの人間関係は、世間の同世代のそれとは違うけれど、でも、非常に力強く固い絆に溢れています。
 自分自身も母子家庭だったらか(そして母親が育夫の母同様にあけっぴろげだったから)、個人的にはこの小説の雰囲気はどこか懐かしくそして気持ちの癒されるものでした。世間のいう正しい家族関係ではないのかも知れませんが、こういう愛情がたっぷりと感じられる家庭のほうがそうでない家庭よりも羨ましいなと思います。
 本作には、もう一つ「7's blood」という短編が収録されています。そちらも、異母姉弟の話なんだけれど、すこしすずつ心がふれあって家族になっていく家庭が心にじんとくる小説でした。「幸福な食卓」「卵の殻」この二冊からするに、瀬尾まいこさんという作家さんは今後どんどん傑作を生み出してくれる作家さんになると確信します。
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卵の緒 (新潮文庫)

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