小説・漫画好きの感想ブログ

小説・漫画好きの感想ブログ

「尾張ノ夏 居眠り磐音江戸双紙(34)」 佐伯英泰著 感想 

 居眠り磐音シリーズの最新刊です。
 権力欲に取り付かれた田沼意次との政治的敵対の敗北から、義父の佐々木玲圓らが殉死。
 やむなく、江戸を離れることになった佐々木磐音とおこんは、尾張名古屋の地まで旅を続けていた。道中も、田沼方の追っ手が仕掛けてくるが、それをはじき返しての尾張入りであった。だんだんとお腹も大きくなるおこんをつれての逃避行は、なかなか苦しい展開になるかと思いきや、意外な展開で尾張松平家が二人の庇護者たらんとして登場する。
 尾張松平家の助勢は、英邁な君主になると信じられていた家基暗殺を受けて、紀伊和歌山松平方でしめられた江戸幕府への反発もあっての助勢ではあるが、そこにいたる人間関係の構築が、偶然と磐音の人間性によるものだというのがこのシリーズらしいところである。
 また、天下の剣とはいえども一介の剣士が幕閣に立ち向かう展開に、物語的な裏づけを与えるこの展開はよく考え付いたものだなと思う。あまりにも主人公と敵対勢力の力関係に彼我の差がありすぎたのが、これで無理筋とはいいながらも道筋がたったのはよいことかと思います。
 さすがに前巻までのままではどうにも展開が出来ず、ひたすら逃避行の物語になるところでしたから、これを契機にまた物語が動き出すのを期待したいと思います。次の巻あたりでは磐音、おこんにも赤ん坊が生まれそうでそのあたりもシリーズを読み続けたものとしてはとても楽しみです。

尾張ノ夏 ─ 居眠り磐音江戸双紙 34 (双葉文庫)

尾張ノ夏 ─ 居眠り磐音江戸双紙 34 (双葉文庫)