小説・漫画好きの感想ブログ

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「雨を見たか 髪結い伊左次捕物余話」 宇江佐真理著 感想

 髪結い伊左次シリーズの文庫最新刊です。 
 さて。今回は非常に残念でした。小説としてのレベルはすごく高いですし、連作短編集という枠の中で一人の見習い同心(不破友之進の息子の龍之介)が成長していく様がきっちりと描かれているので作品としてはとても良いと思いました。
 ただ、あくまで個人的な僕の感想としては、あくまでこの物語の主人公は伊左次であるので、、ほとんど伊佐次が活躍しないしメインの筋にからまない今作はちょっと残念な一冊でした。自分としてはこのシリーズは伊左次が迷ったり苦しんだり、或いはようやくつかんだ幸せをちょっとずつ確実にしていったり、人に共感して泣いたり笑ったりするのがとても好きだっただけに、伊左次がその他大勢の一人のような今回の巻はちょっと違うなぁと思ってしまいます。
 このあたり、長いシリーズものの場合にはジレンマとしてよく出てくる事柄なのかも知れませんが、でも、もうちょっとなめらかな世代交代や転機があるように思います。今回はあまりにがらっと変わっちゃって驚きました。
 今巻ではほぼ主人公扱いの龍之介は、伊左次が御用をつとめるときの主である友之進の息子で、今までの作品でもたびたび出て来たことがあります。その時はまだまだ子供だったのが、今作では15歳と年こそ若いけれど同心見習いとして着実に成長を遂げています。けれど、子供だった頃は本当に坊っちゃんだった彼が、同心になった途端に伊左次を軽くみたり小物として扱う風が見えたのは残念(まぁ時間がたてばこれもまた解決するんだろうけれど)だったし、同心で雑事に追われながらも一つの事件にずっと関わっていく中でちょっと偏りが生まれつつあるのが気になって仕方ありませんでした。
 次の巻でも、伊左次がサブのようだったらこのシリーズからは撤退するかも知れません。
 それくらい残念でした。話の作りや話の運び、情景を描きだす力、小説としての巧さは十分に感じられるだけに余計に残念でした。

雨を見たか―髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)

雨を見たか―髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)