「チャイルド44」上巻 トム・ロブ・スミス著
初読みの作家さんです。
今年(2008)の海外ミステリ部門では超話題となった一冊です。おおむね絶賛、大好評のようで、遅ればせながらと手にとってみました。引っ越しのドタバタで途中行方不明になっていましたが、続きを読み始めると手がとまらずどんどんと読み進めてしまいました。
まず、設定が独創的だし面白い(実話をもとに着想だそうですが、目のつけどころがグッドです)。
スターリン政権下での連続殺人のミステリというのですから、他になかなか例を思いつけません。今までミステリの歴史においては、中世の修道院が舞台だとか、古代ローマが舞台だとか、ドイツ軍と吸血鬼が占拠しているイギリスが舞台だとか、はたまたドイツ占領下のパリでゲシュタポとコンビを組む推理ものとかいろいろ特殊な舞台設定がありましたが、これもけっこう独創的。なにせ、この時代のソビエトでは、犯罪はあってはならないもの、減っていくもの、連続殺人犯なんて存在してはならないものとして、捜査すら許されていないからです。恵まれた社会主義国家で、思想的にも社会的にもそんなものはいる筈がない、だから連続殺人なんてない、という論法です。
そんな特殊な状況下で、本来は刑事事件などとは縁遠かった国家保安省(いわゆるKGBの前身のようなもの)の若きエリート捜査官のレオが、めぐりめぐって連続殺人犯を追う事になるというのがこの小説の大きな本筋なんですが、本来起こらないことが起こることが自然であるために、この主人公のレオはひたすら苦難の道を進むことになります。いまだかつて、人を国家のために捉え裁くことに疑問を覚えず、悪くいえばそんなことは意識的にシャットアウトして、自分の正義を貫いてきた彼の人生の歯車が徐々に狂っていく様や、それでもその中でまだ自分の信念や意志にしがみついて動く彼の姿はひさびさに骨太なミステリを読んだなと満足させられます。
とはいえ、前半のまでの彼の正義はある意味ひとりよがりなもので、それが徹底的に否定されるところも並のうすっぺらい小説とは大きく異なり、ただ単にミステリを読むというよりはもっと強い「人間そのもの」を描いた小説ともいえます。まだ下巻に入って半ばくらいなので最後にオオハズレになる可能性もないではないですが、話が進むにつれて面白くなっていく様子からはかなり傑作の予感がします。
「ブレードランナー」「エイリアン」のリドリー・スコット監督で本作は映画化されるそうです。リドリー・スコット監督って、ラッセルクロウとロビンフッドを撮るとか、ゲームの「モノポリー」を映画化するとか、、、なかなかに精力的な人ですね。ジャンルも無茶苦茶広いし。
- 作者: トム・ロブスミス,Tom Rob Smith,田口俊樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/08/28
- メディア: 文庫
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