小説・漫画好きの感想ブログ

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「フランスで大の字」 小栗左多里&トニー・ラザロ著 感想 

「フランスで大の字」 小栗左多里&トニー・ラザロ著 感想 

 小栗左多里&トニー・ラザロの海外旅行記シリーズ「〜で大の字」シリーズ最新刊です。二人のことは映画「ダーリンは外国人」で知った方も多いかな、と思います。言語マニアで大量の外国語を操るトニーと、漫画の小栗さんが体当たりで描く体験旅行記がこの「〜で大の字」シリーズで、飾らない二人の人柄と、外国人と日本人、そして現地の人という三つの視点や価値観であれこれ語られるのがこのシリーズの売りだったと思うのですが、、、あえていいますが、今までのシリーズで一番出来が悪いです。
 上記のような魅力的なアドバンテージを得て、それを漫画でやれるという事で、ポテンシャルの高いシリーズになるはずなのに、最近の良くないパターン、すなわち、駆け足すぎで、大して深くない情報なのに詰め込みの情報羅列になってしまって、漫画としてのおもしろさや文化的な深みを楽しめない、そういう悪い傾向に拍車がかかっているような気がします。
 小栗さんは「あるある系のネタ」や「文化ギャップネタ」が非常に上手い漫画家さんなのに、そのことが今回もまったく生きていません。「ダーリンは外国人」の頃のような日常での文化ギャップや未知のことへのリアクションの面白さが、ここのところありません。
 これは、たぶんにページ数のわりにはまわるところが多すぎることに一番の原因があると思います。なんせ160ページほどの本で50数カ所もの場所や博物館を巡り、さらに体験レッスンもするのです。傘を作ったり、香水を作ったり、三ツ星レストランを訪ねたかと思うと、城作りをしたり、モネの作った庭園を見たり、コサージュ作ったり、ひょうたん笛を作ったり、シャンパンの試飲をしたり、パステルを作ったりともう盛りだくさんすぎて、かえって一つ一つが駆け足でさらっとしたものになっちゃっています。たぶん、本当にちゃんとレッスンしてもらったら最低でも数時間、下手したら半日はそれをやっているわけで、そういう長期ロケを一冊の、しかも漫画にまとめようというのですから、これは明らかに詰め込み過ぎです。
 途中の描写の一つから察するに、トニーニョ(長男)くんもいっている筈なので、できればもっとまわる数を減らして、子供目線のお話や体験も描いてあげて欲しかったなとも思います。
 あと、これ非常に重要なのですが、様式美がなさすぎです。
 せっかくフランスに行ったののであれば、フランス行きが決まったきっかけや、フランスについての前フリや、旅のコンセプト、行くまでの準備のあれこれなんてのもできれば欲しかったです。なんせ、どこどこに行った、体験した、みたいなことがあるばかりでそのあたりにいてこれといった説明がないのです。日本人的には、やはり最初にはまえがき的なものがあって、旅に行く前にあれこれ思った事があって、それから本編、できたら最後に総括といったものが欲しいんですよね。そういうのがないとなんかしっくりこない。
 詰め込みすぎて、そういうのを掲載するスペースすらなかったのかも知れませんが、もっともっと才能があると思うからこそ、厳しめの書評&感想でした。

さおり&トニーの冒険紀行 フランスで大の字

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