小説・漫画好きの感想ブログ

小説・漫画好きの感想ブログ

「小沢征爾さんと、音楽について話をする」小沢征爾×村上春樹著 感想 

 今年283冊目の紹介本です。
 「小沢征爾さんと、音楽について話をする」小沢征爾×村上春樹の対談本です。
 小沢征爾さんといえば、世界中の名だたるオーケストラの指揮者として名を馳せたオーケストラ指揮者。かたや村上春樹さんも説明するまでもなく日本を代表して世界中で評価される現代作家の最高峰の人物の一人。この二人が、クラシック音楽を肴に、音楽について語り尽くしたのがこの本です。
 小沢征爾氏が身体を壊してしまって療養中に村上春樹氏とゆっくり語り合う時間ができたことで実現したこの対談は、時を変え、場所を変え、ときに海外で、ときに日本で、ときに村上春樹氏の家で行われています。主なテーマはいくつかあるものの、縦横無尽にクラシックのなりたちや個々の作曲家の曲について、またそれを演奏するグールドやゼルキンカラヤンバーンスタインら指揮者についてを、思い出話をしながら論じていきます。実際の指揮者であり音楽家である小沢征爾と、趣味の音楽人でありマニアではあるものの村上春樹では音楽の理解度や深みには勿論のこと天地ほどの差があるはずなんですが、小沢征爾をして感嘆させるほどに村上春樹は音楽についても詳しく、本当にたくさんの音楽を聴いて味わっているのがこの本を読むとわかります。
 彼がこの本の最初のほうで引用しているデューク・エリントンの言葉とその解釈も彼がいうとなるほどと思います。曰く。
 「この世の中には、「素敵な音楽」と「それほど素敵じゃない音楽」という二種類の音楽しかないのであって、ジャズであろうとクラシック音楽であろうとそれは同じことだ。「素敵な音楽」を聴くことによって得られる純粋な喜びは、ジャンルを越えたところに存在している。
 まさに、そうだと思う。世間的には、クラシック音楽と聞くと、まるで古くさい音楽で退屈の極みのように思う人もいる。僕みたいにかつては弦楽器を弾いていた人間ですらそうだったりする。けれど、偉大な音楽も、日常の音楽も、風に乗って流れる音楽も、すべては同じ音楽でしかないしその価値は全く等しく、食わず嫌いは勿体ない。そんなわけで、音楽がとても好きな人、クラシックが好きな人には是非読んでもらいたい本だし、むしろクラシックとかが苦手な人でも村上春樹が水先案内人となって導かれる音楽の世界を少しだけでいいからかじってみて欲しい。
 ここに出てくる音楽、例えば、ベートーヴェンのビアノ協奏曲三番をいろいろな演奏家で聴き比べてみたり、マーラーの音楽にドイツのがっちりとした音の裏に不意にあらわれるユダヤ民謡の調べを感じたりして欲しいです。おすすめします。

 

小澤征爾さんと、音楽について話をする

小澤征爾さんと、音楽について話をする