小説・漫画好きの感想ブログ

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「御宿かわせみ16 八丁堀の湯屋」平岩弓枝著 感想 

 本年度5冊目の紹介本です。
 といっても、いまだに新年年明けに読んだ本には全く辿り着けないのですが、少しずつ近づいてみたいと思います。ちなみに今読んでいるのは、イアン・ランキンのジョン・リーバス警部補シリーズの最終巻「最後の音楽」という作品ですが、ここまで辿り着くのは半月くらいかかりそうです。
 さて。
 御宿かわせみ。言わずもがなの平岩弓枝さんの時代捕物帖で長編シリーズ作品で、今もまだ新作が出ている作品です。自分がここで紹介するのは16巻ですが文庫版の裏表紙を見る限りでは、少なくとも33巻くらいまではあるし、噂では江戸時代からさらに時代が進んでグイン・サーガばりに息子らの世代まで出てくるとかこないとか、、ですが、敢えてそのあたりはスルーして今読んでいるところに集中します。でないと、今の主人公達のその後がひどく気になってしまうので。
 で、この16巻現在では、主人公の東吾と、かわせみという宿屋の女主人がようやくと結婚して幕末のちょっと不穏な世相の中暮らしています。黒船がきて、世相が乱れているけれど、一般の市井の人々の暮らしにはまだあまり影響がなくて、普通の時代劇だと思って読んで問題ない設定で、その中で主人公の東吾が、友人で八丁堀の同心の畝源三郎などに頼まれていろいろな事件を解決していく短編集です。
 今作では「ひゆたらり」「びいどろ正月」「吉野屋の女房」など八本の短編が収録されています。このシリーズでの個々の作品は、ミステリとして見るとけっこう雑すぎる話や、事件解決がかなり運に頼った結果だったりする話もあるのでミステリ作品としてだけ評価すると厳しい話もあるのですが、今回は割合とミステリ色の強い話が入っていて、それもかなり技巧的な作品が入っていて読み応えがありました。例えば、さきにタイトルを挙げた「吉野屋の女房」などは、るいがたまたま訪れた古道具屋「吉野屋」で買ってきたお雛飾り用のタンスの中に、その吉野屋の主人宛の恋文が入っていて、それにあとで気づいたのか翌日にその箪笥は吉野屋からの使いがあり買い戻されていきます。しかし、それからしばらくして吉野屋で人死にがあり、、、となかなか趣きがある話が展開されます。
 逆に、表題作の「八丁堀の湯屋」という作品は、読後感が非常に悪くてどうしてタイトルにしたのか逆に悩む作品でした。八丁堀の湯屋というのは、落語好きの方には常識かも知れませんが、いわゆる朝方の女風呂のことで、この時間帯には女性はあまりいないので女風呂に刀掛けなども置いてあり、八丁堀の旦那達たちがこの時間に限っては混雑する男風呂を避けて女風呂に入っていたということを指します。そして、物語はそのことを意識して読むとするっとトリックというか真相があっさりとわかってしまうという、ある意味出オチみたいな話なんですが、本当に読後感が悪いので読むときは要注意です。
 まぁ、でも、考えてみればそういう後味の悪い話もさらっと書いてしまうのがこのシリーズの特徴かもしれません。何冊かまえの「神かくし」の時もそうでしたが、このシリーズでは理不尽な死や、とことんついていない人々、運に見放されてしまう人々、運命の明暗が心がけとかとは関係なくクッキリ別れてしまう人々もしばしば書かれます。普通の物語では、割合と頑張った人や努力した人にはいい運命が待っているのですが、このシリーズでは案外そうでないケースも多く、リアルといえばリアルなんですが、そういうのも含めての全体的な群像劇になっているのかも知れません。