小説・漫画好きの感想ブログ

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「キマイラ6」夢枕獏著

 キマイラの新装版のほうの最新刊です。 
 人間でありながら、キマイラという獣と化す力をもっている二人の少年、久鬼麗一と大鵬吼。この二人の出生の秘密が語られ、それぞれが本当は双子の兄弟であることが判明。しかし、二人ともがキマイラから人間に戻れず、その事実すらも知らず、苦しみの渕にいる中で物語は進んでいきます。まわりの全員が個人的な思惑や、誠意、興味、愛情など理由は色々あれど彼らを元に戻そうとしていく中で少しずつ物語の核が現れていきますが、そのスケールの大きい事大きい事。人が人であるということ、人が人でなくなるということ、命とは? みたいな話が日本、中国、チベット、ヒマラヤ、現代・過去を行き来しながら語られていきます。かたや美しい獣と化したものの自我すら失って野をさまよい、獣を殺してくらうところまで落ちた久鬼。風祭のもと、仲間達のもとに戻ったものの獣の顔と歪な身体になったまま苦しむ大鳳。どちらもが不条理な運命に翻弄されていますが、その根っこの部分は数千年の歴史と、人間のもつ無限の可能性にあって、彼ら一人一人の力はあまりに非力です。人にあらざる者としての力をもちつつも、少年の心のままで、獣になってしまった苦悩もすべて含めてその圧倒的なものの前には無力です。でもだからこそ、あらがう姿とかに感動してしまいます。
 ところで話本編からずれますが、、、、何が凄いといって、よくよく考えたら夢枕獏さんってもう60直前のはずなんですよ。なのに物語の勢い、力、瑞々しさがまったく失われていないことが何より凄いのではないかと思ってしまいました。もちろん、この6巻収録の話を書いておられるのはもっと前なんですが、最近の著作を読んでも全然それが衰えていないのが凄いです。
 キマイラに限っていえば、物語の勢いはまったく衰えず、まだまだこれから話は広がっていこうとしているようですから、あと十巻くらいはつきあう事になるのかと思いますが、これほど先が楽しみなシリーズも珍しいです。
 

キマイラ 6 (ソノラマノベルス)

キマイラ 6 (ソノラマノベルス)