小説・漫画好きの感想ブログ

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「処刑御使」 荒山徹著 

 北朝鮮への制裁解除がらみのニュースがたくさん流れる中ですが、その朝鮮半島と日本、もっと限定していえば韓国の初代総督となった明治の元勲の一人「伊藤博文」が主人公の小説です。たぶんだから、韓国だとか北朝鮮だとかの話をするとそういう話を期待して検索して辿り着いちゃう人がたくさん出ると思いますが、この書評に関してはそのあたりは触れません。現代の話は現代の話として、そういう方の為には別枠できちんと取りあげたいと思いますので、ご容赦。
 さて、感想。
 この小説が荒山徹さんの初読みでしたが、面白かったですねぇ。ひさびさに痛快な伝奇小説でした。菊地秀行とか、山田風太郎が一番近いかと思います。御本人さんもそのあたりは意識しているようですが、この一冊を読む限りそれは成功しています。強いていえば、エロスの部分でちょっとその二人には及ばないですが、読みやすさとかテンポの良さ、思い切りの良さは逆にいいと思います。また、いわゆる常識的なというかセオリーをきれいにハズして設定や物語を展開するオリジナリティというか奇想は結構いいと思います。
 今回の話も、アイデアはただ一つ。過去に遡って、敵対国の要人を暗殺するというその一点のみ。それだけで結構な長編を書いてしまっています。普通そういう流れだと、そうした過去へのタイムトラベラーはSF仕立てで送られるのが相場ですが、ここで送られるのは朝鮮の妖術師たち。彼らは妖術で過去へと遡り、若き日の伊藤博文を狙います。この朝鮮の妖術師たちについては、過去の他の作家さんも扱っておられますが、妖しさに関しては世界でも結構類を見ない奇怪な術者たちで、ノリは本当に菊地秀行山田風太郎の小説に出てくるような奇人魔人たち。なので、普通の小説のセオリーからしたら、それを迎え撃つべく伊藤博文が実は超能力者だった、或は、彼を守るべく日本も僧侶や強い武士が登場しそうなものですが、彼を守るのは意外な人物。  
 それが誰かは読んでみてのお楽しみですが、妖術合戦も奇々怪々な技の掛け合いとなります。特にクライマックスシーンの妖術については、たぶん、あれは普通ありえないというかリアルに想像するとすごい荒技が出て来ます。なんというか、楽しんでくれたら嬉しいな的なノリの良さが前面にでていてエンタメということに逆に拘った展開かと思います。そういう意味では他の作品が楽しみな作家さんです。
 あと、そういうエンタメ作品ながら、意外とまともといったら失礼なんですけれど、幕末あたりからの欧米の植民地主義が出てくる流れと、そこにはまりこんでの日本・中国・朝鮮、わけても日本と朝鮮の関係や感情の変遷などについてを、いろいろな本よりうまく簡潔にまとめきっています。それを読むだけで今の日韓や日本と北朝鮮あたりの話の根底にある感情的な相克なんかがよくわかる素晴らしい出来になっています。日本寄りでもなければ、朝鮮寄りでもなく、陰謀史観自虐史観にも寄らず、きちんと描いていて、なかなかやってくれます。 
 

処刑御使 (幻冬舎文庫)

処刑御使 (幻冬舎文庫)

追記:御使といえば、「暗行御史(アメンオサ)」コンビの尹仁完梁慶一さんがスピリッツで新しい漫画を連載スタートしましたね、『バーニングベル』というこれも朝鮮が舞台の話のようです。