小説・漫画好きの感想ブログ

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「沈黙の王」 宮城谷昌光著

 宮城谷さんの初期の短編集なんですが、たまたま書店で見つけて買ってしまいました。本の整理がまったく出来ていないので、家にあるのはわかっていながらおそらく今後一年くらいサルベージしないと出てこない本だったりすると稀にこうして再購買という事があります。
 当然、かなり好きな本でないとそういうことは起こりえませんが。
 さて。そんな訳で、宮城谷さんの「沈黙の王」。
 古代中国ものの短編集です。収録作品は「沈黙の王」「地中の火」「妖異記」「豊穣の門」「鳳凰の冠」の五編です。「沈黙の王」は、商の二十二代の王の武丁が文字というものを初めて世界で制定しようとするまでの話。もちろんこの時の字は感じではなくて甲骨文字です。続いて「地中の火」はさらに時代をさかのぼって、夏王朝の初期にこれもまた初めて弓を使用した狩猟民族の王、后ゲイ(ゲイの字が出ません)と配下の男の話。「夷」という字の成り立ちに関わる話です。そして「妖異記」と「豊穣の門」は周王朝末期の名君の鄭君の友と、褒ジ(ジも出ません)の話です。褒ジについては、笑わないお妃様で有名な方です。
 このような古代の話ですが、そこには宮城谷さん風に解釈された気持ちのいい絵巻物風の世界が広がっており、いつもながら気持ちをからりと晴れさせてくれます。じめじめとした雨が続くこの季節には、ちょうどいい感じです。ただ、割合と歴史好きの人以外には本当にマイナーな人物たちが主人公なので、そのあたりは留意してください。あ、でも、まったく知らない物語として読むとそれはそれで新鮮かもしれませんね。エピソードを知らない物語の方が新鮮かも知れませんから。
 

沈黙の王 (文春文庫)

沈黙の王 (文春文庫)