小説・漫画好きの感想ブログ

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「ゆめつげ」 畠中恵著

 幕末の江戸・上野にある小さな神社の跡取り兄弟の、弓月と信行。
 のんびり屋でおっちょこちょいなところもある兄の弓月と、しっかり者でよく気のつく弟の信行。彼らは神主である父親とともにこの神社を守っています。とある日に彼らは、少し外れにある大きな神社の権宮司である佐伯彰彦氏の訪問を受けます。彼は、弓月の「夢告」の能力を聞きつけて占いの依頼にやってきたのでした。
 実は、兄の弓月は、夢に入って人の未来や過去を見、失せものを探す「ゆめつげ」の能力をもっていたのです。しかし、「迷いネコを捜せば、とっくに死んで骨になったネコを見つけてくる」と言った具合にあまり当てにならないものといった程度の評判でしかないその能力に対して、権宮司の彰彦は妙に積極的です。神社の母屋の修理費という謝礼に目がくらんだ二人は彼に誘われるままに出向き、そこで行方不明になった息子を捜して欲しいという依頼にこたえて夢告をするのですが、、、
 さて。生き別れになった息子を捜すための夢告のはずが、その夢告の裏にはいろんな人のそれぞれの思惑や、背景があり、物語は意外な展開となっていきます。
 出だしはほのぼの系のお話かと思いきや、夢のおつげが不可解に謎めいていたり、中盤からは人死に等も出て、いろいろな意味で予想を次々と裏切る展開に驚きました。今まで畠中さんの本といえば、ドラマにもなった「しゃばけ」シリーズしか読んでいなかったので、自然とほわほわと暖かい心持ちのものを予期していたのでびっくりでした。主人公の弓月が優しいので口当たりはいいですが、事件とあらすじだけ取り上げてみると結構ハードな展開です。でも、やっぱり畠中さんの時代劇はどこか優しくてどきどきはらはらしながらしっかり楽しめました。
 この本は、彼女のお得意の人情話的要素もたっぷりだし、夢で過去や未来を行き来して行動していくなんていうエスパー的なものを取り入れ(考えたらしゃばけは妖怪ものだったけれど)た読みやすいエンタメ小説にしあがっています。

ゆめつげ (角川文庫)

ゆめつげ (角川文庫)