小説・漫画好きの感想ブログ

小説・漫画好きの感想ブログ

「阪急電車」 有川浩著

 懐かしい。
 まずは、その一語に尽きました。
 タイトルの阪急電車、わけても物語の舞台のすべてといっていい阪急電車今津線は自分にとってもずっと使い続けて来た沿線だし、作品中にでてくるスポットや場所も知っているところが殆ど。町の雰囲気や情景、人々の雰囲気がすごくリアルに立ち上がってきて、地元民だった当時の事がすごく懐かしく思い起こされました。作品自体がよく出来ている事が大前提ですが、普通の人が読んで感じる暖かさ以上のものを、こればっかりは住んでいた人間の特権としてより大きく受け取ることが出来たと思います。
 自分にとっては、初読みの有川浩(失礼なことに最近まで男性と勘違いしていた)さんでしたが、なんともいえずバラエティ豊かないろんな人の日常描写と群像劇の妙に、他の作品も読んでみたいと思いました。小説の構造自体は、阪急電車宝塚駅から西宮北口までのわずか十あまりの駅を一つ乗り進むたびに主人公を変えて一つの物語がたちあがり、それが相互に干渉し合い、折り返し地点からまた話が時間を経て進んでいくという今迄になかった新しい試みがある実験的な小説なんですが、その中で繰り広げられる日常はあくまで日常のことで何か凄いことがあるわけでもないですがだからこそ安心して優しい気分で読む事が出来ます。 
 共感する、というのが一番近いでしょうか。若いカップルたちの話に昔を思い、小さな子とおばあちゃんの会話に暖かい気持ちになり、恋する女の子の悩みや葛藤にため息をついたり、別れに決別する女性にがんばれとエールを送ったり、そんな感じで読んでいく一冊です。
 男性にはちょっと勧めるのがためらわれるのですが、女性ならけっこう共感して読んでもらえると思います。

阪急電車

阪急電車


 追記 もちろんの事ながら、この小説鉄道オタクの人用のものではありません。普通の小説です。