小説・漫画好きの感想ブログ

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「水滸伝 十六巻 馳驟の章」 北方謙三著

 いよいよ、残りあと数巻となった北方水滸伝、文庫版の最新刊です。
 前巻までは戦いに継ぐ戦いで、ひたすら宋軍と梁山泊のどちらにも死傷者が続出、主要メンバーでも両手に余るほどの死者が出続けて来たこの物語でしたが、この巻はちょっと違いました。勿論、そうはいっても、内乱に近い形までいった両軍ですので、相変わらず人が死んではいきます。しかし、その死が何万という人々を巻き込んでの激しい軍隊同士の戦いの中でのものではなく、暗殺や謀略、諜報活動の中でのものとなりました。
 なので、力と力のぶつかり合い、激しい戦いを期待したむきには肩透かしだったのかも知れませんが、個人的には国と国との戦いをまっとうに描いていこうとすればするほど必要な巻だったのではないかと逆に評価の一巻でした。ローマ兵は兵站で勝つ、とも言われるように、戦争は単に強い兵器や強い将軍、強い兵隊がいたらそれで勝てるかといえば勿論そんなはずはないのは皆さんもご承知の通り。兵站ももちろん、人材育成、外交交渉、暗殺合戦そういうものがなくて勝てるほどに甘くはありません。そういう意味では、この巻では、闇の中で戦いが起こり、決していきますがそれがまた読み応えがありました。特に、そういう表舞台の裏のことの中で描かれる、人間であるということの弱さ強さ醜さそういう諸々の感情がきっちりと描かれているあたりが単なる軍記もの以上にこの作品をしていて、とてもよかったです。
 二人の亭主をなくした孫二娘の苦悩や、梁山泊のメンバーで初めて裏切るように罠をかけられる孫立、いよいよ青蓮寺を正面からたたき潰す作戦に出た公孫勝、そしてそのために戦いにでる燕青。彼らの活躍やいかに。また、宋の禁軍の元帥にしていよいよ梁山泊との決戦に乗り出す気になった童貫と、史進の初めての激突の結果はいかに。読みどころの多い16巻でした。
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水滸伝 16 馳驟の章 (集英社文庫 き 3-59)

水滸伝 16 馳驟の章 (集英社文庫 き 3-59)