小説・漫画好きの感想ブログ

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「邪神迷宮」 菊地秀行著

 最近じわじわと作品発表ペースの落ちて来た菊地秀行さんから一冊。 
 魔界都市「新宿」ものからスピンオフした、魔界都市ガイドシリーズの最新作です。
 このシリーズは、魔物や妖怪・サイボーグが跋扈する都市となった新宿をどんなところでもガイドする外道忘八が主人公です。彼は街に対する該博な知識とサイボーグ化した身体を駆使してガイドを営んでいますが、今回彼のもとを訪れたのはイチローという少年。彼は、忘八自身は全く覚えがないが彼の子供だと名乗り、そして母の遺灰を遺言通りに「ナイアルラトホテップの泉」撒きにきたと言うのです。忘八は、まったく身に覚えがないだけに断ろうとはするのですが、結果的にはやむなくガイドを勤めることになります。
 ただ、そう簡単には問屋がおろさず、ナイアルラトホテップの名前が出てくることから推理されるように、クトゥルーとヨグ・ソトホートたちクトゥルーの神が物語に絡んできます。彼らはクトゥルーの神々のことを書かれたネクロノミコンを求めて、新宿にやってきます。それぞれは封印されたままの状態故に代理人を通してという形ながら、邪神の力の一部を駆使して行われるクトゥルー神の代理人たちの前に外道たちはなす術もありません。出来ることはお互いの対立を上手く利用しながら目的を果たすために動くしかありません。
 、、ということで、クトゥルー神話の題材を真っ向から持って来たこの作品では、菊地氏にしては珍しいくらいにエロチックなシーンは少な目で、ラヴクラフトに敬意を表した形になっています(尤もやはりクトゥルーらしきものをモチーフにした彼の別作品である「妖戦地帯」ではそっち関係が激しすぎましたが)。なので人間はあまり活躍しません。戦いようがないので、いかに主役の外道といえどひたすら翻弄されっぱなしです。これが同じ新宿でも秋せつらや、魔界医師メフィストを出してくると嘘でも勝負に持ち込まなくてはなりませんが、そうなるとクトゥルーが弱くなって菊地秀行氏の本意ではないということで、このシリーズが選ばれたのかもしれません。
 ただ、一回きりの禁じ手かも知れませんが、今作で見せたクトゥルーものの物語のジレンマである「クトゥルーの神々圧倒的に力が強すぎて、人間がどうこう勝負できるような相手ではないので、クトゥルーものはまともな長編にならない」という部分を、神々同士を戦わせて話を展開させるというアイデアはクトゥルー神話の新しい形としていいパターンかも知れません。ただクトゥルーたちに人間的なそういう思考パターンがあるのかというところが問題ではありますが。。。ともあれ、結構楽しんで読ませてもらえる娯楽作品としては結構いい感じに仕上がっていました。ので、5の4にしておきます。
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邪神迷宮 (ジョイ・ノベルス)

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