小説・漫画好きの感想ブログ

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「クレィドゥ・ザ・スカイ」 森博嗣著 

 こんばんは、樽井です。
 少しずつリハビリのように読書日記を書いていきます。今日みたいな雨の日はアンニュイで家でのんびりと本でも読んでいたいのですけれど、お仕事ともなるとそうもいってられません。特に、今日から新入社員が一人増えて研修もしなくちゃいけないとなるとそんな風に気怠げにしとくわけにもいきませんからね。

 
 「クレィドゥ・ザ・スカイ」 森博嗣著 

 戦闘機のパイロットたちを描いた「スカイクロラ」シリーズの最終巻です。
 シリーズが全五巻ですから、最終巻の本書は、当然第五巻になります。普通はシリーズの最後の話になります。が、実は森博嗣らしいトリッキーな構成が仕掛けてあって、一番最初に出た「スカイ・クロラ」が実は時系列的にいうと最終巻になるので、この「クレイドゥ・ザ・スカイ」は「スカイ・クロラ」の時系列でいえば、四冊目。シリーズ最初の「スカイ・クロラ」へ繋がっていく話になります。
 もちろん、シリーズ全編を通して読まなくてもいけるようにはなっているので、この巻だけを読んでも大丈夫は大丈夫ですが、たぶんこれを読んだらもう一度「スカイ・クロラ」も読みたくなると思います。
 さて。
 内容ですが、前作で撃墜されたクリタ・ジンロウらしき人物が主人公となり、彼が何より愛する空と敵パイロットとの空中戦から切り離され、自分たちキルドレの秘密を解明した科学者サガラアオイや、自分のことを気にかけてくれる娼館の女性フーコと逃避行する内容となっています。彼は、飛べなくなることを恐れ入院している病院から抜け出し、彼女たちと逃避行を繰り広げます。ただ、彼を追いかけてくる軍や彼のキルドレとしての存在に責任や葛藤を強く感じる組織が焦りを感じているのとは裏腹に、彼自身は何の焦りも自分自身についての深い感慨もありません。なんとなく流されて逃げているだけで、彼自身は常にふわふわとした自分の自我の中で、ただひたすらに空を飛びたい、戦いたいと願っているだけです。その心のありよう自体がキルドレである業といえなくもありませんが、そのように彼を可哀想がることや理解しようとすること自体を、彼、彼女らキルドレはナンセンスだし意味がないことだと感じています。彼らにとっては本当に空を飛ぶことだけが生きているということなのです。周囲の名前も、関係も、彼らには何の価値もないことなのです。
 だから、彼らの世界はとてもクリアで透明で澄み切っています。
 過去も未来もなく、ただただ空を飛んで戦うことだけが望み。そんなシンプルで余分なものがない世界に住んでいる彼らキルドレを描いたこの「スカイクロラ」シリーズはいずれも澄みきっていましたが、本作ではその彼らの中にも実はあったゆがみや滅びの因子みたいなものが極めて強い形で暗示されます。彼ら自身にとってはそれすらも意味がないものですが、その苦い部分が作品により奥行きを与えてくれています。いい形で最終巻を閉めたのではないかと個人的には思います。
 とはいえ、ここまで書評めいたことを書いておいていうのもなんですが、このシリーズに関してはただただ読むというのが一番の楽しみ方だと思います。いろいろな謎を解明したりするのもありですが、ひたすら空にいるような浮遊感とクリアさに浸るというのが正しい読み方の気がします。
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クレィドゥ・ザ・スカイ―Cradle the Sky

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