小説・漫画好きの感想ブログ

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不確定世界の探偵物語

 おはようございます。
 最近、本当に暑くて暑くて朝はどうしてもぼんやりしがちですが、お盆を前に仕事もとても忙しく、今日もこれから現地へと向かいます。エアコンをがんがんとかける季節の前に電気の割引を利用しようということで、駆け込みの依頼も増えているからなかなかにハードです。
 さて。
 今日御紹介するのは、「不確定世界の探偵物語」という本です。
 著者は鏡明さん、創元SF文庫から出ています。鏡明さんという日本SF界においては圧倒的なビッグネームで知る人ぞ知るという存在ですが、そういう予備知識は抜きにしてこの不思議な世界を楽しんでもらえたらと思います。
 設定は遠い未来のアメリカらしき世界。主人公のノーマン・T・ギブソンは、その世界で私立探偵を営んでいます。ただ、この世界では探偵という仕事を始め、多くの仕事にこの世界とはかなり違う制約や障害がつきまといます。というのも、この世界にはたった一台ながらタイムマシンがあり、世界は常にその姿を変えてしまうからです。
 通常のSF作品では、タイムマシンやタイムトラベラーが登場すると、必ずやそれらは時間の正しい流れを守るためにということで歴史を変えない方向に物語のベクトルは向きます。しかし、この作品では、世の中の物事はタイムマシンによって常に変化するものだという事が受け入れられています。極端にいえば、それによって国が一つ消滅したり、街が一つまるまるなくなったり、昨日までの自分と今の自分は違う仕事をしていたり、犯罪者が犯罪を犯した歴史そのものがなくなってしまい、無罪になったりという現象が頻繁に起こります。唯一の制限は、過去の70年以内の出来事には直接介入できないというものだけで、当然それ以前にある人物の先祖を殺せば、その人物はいなくなってしまいます。
 そういうことを、そういう問題はあるもののタイムマシンによって人類はよい方向に進んでいっているという認識のもとに許容しているのがこの作品の世界です(もっとも、そのタイムマシンをエドワード・ブライスという大富豪の一個人が所持所有しているというのも支配に影響していますが)。そして、そういう世界で、ノーマンは探偵として働いています。正直、厳しい仕事です。過去が確定し続ける世界ではないので、証拠がなくなったり、犯罪の事実そのものがなくなったり、人の記憶も変化し続けるのですから。しかし、彼はそういう世界において探偵をしています。
 そして、どういうわけだか、彼に、世界そのものを実質的に支配しているエドワードが陰に陽に接触してきます。ノーマンのよきパートナーになるジェニファーも最初はエドワードの秘書の一人でした。果たして、ノーマンにどうしてエドワードがこだわるのか。普通の探偵連続小説として存在するノーマンの短編ものの裏に一貫して流れるエドワードの意図は、、、。
 かなり楽しめる連続短編小説でした。
 探偵物語というタイトルからは松田優作を連想したりしますが、それもありの方向で楽しめます。