小説・漫画好きの感想ブログ

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「泣きの銀次 虚ろ舟」宇江佐真理著  感想

 誰か読んでいるといいなぁなんて思いつつ久々に歴史物紹介。

 江戸時代を部隊にした捕物帳、時代劇ミステリー「泣きの銀次」シリーズの最新刊にして最終巻がこの「虚ろ舟」と作品になります。死体を見ると、どうにも泣けてしまって仕方がないという特異体質の岡っ引き「銀次」を主人公にした、正統派の人情捕物帳もいよいよ最終巻となりました。最初はいなせで喧嘩っ早いので通った主人公の銀次も年を取り、娘達も嫁にいく。最終巻は、捕物帳でありつつも、そんな老境の主人公とその家族の物語となっています。
 さて、そんな最終巻につけられた「虚ろ舟」というタイトル。
 奇妙だと思いませんでしたか?
 この「虚ろ舟」とい単語を聞いてピンとくるのは、古事記だとか日本書紀とかの古代神道好きか、或いはムー的なSF・UFO雑誌好きかのどちらかだと思います(ですよね? ピンと来た方)が、知らない方の為に説明しますと、この「虚ろ舟」というのはいわゆる「宇宙船」もしくは「異界からやってくる乗り物」を指す古語です。これを聞いて諸星大二郎の漫画を思い浮かべるか、電飾バリバリのUF0や「V」を思い出すかはそれぞれでございましょうが、今回のこれに限っては、そのものズバリUFOを指しています。
 しかも、奇妙な光を発する、円盤形のUFO。由緒正しきアダムスキー型の円盤が登場いたします。
えぇ、江戸時代の捕物帳にです^^ どうして円盤が出てくるのか、それはちょっと謎ですしどういうものかは本書をお読みいただくのが一番なんですが、、、とりあえず言えることは、この最終巻は今までに読んできたいろんな時代劇もの、捕物帳の中でもかなり異色の作品だということです。勿論、UFOが出てくるのもかなり珍しいですが、それ以上に、主人公の銀次が関わる事になる二つの殺人事件。これに対して銀次が行った、とある行動がちょっと予想外。
 正直にいえば、一応は人気シリーズの主人公なのに、そんなことをしていいのか、そんなことがあっていいのかという風なことをしてしまいます。こればっかりは不意打ちのネタバレで書くのはちょっと問題がありかと思うのでかけませんが、かなり驚きもしましたし、、、愛着ある主人公の扱いにしてはちょっと本当によかったのかなぁと思うところがあります。
 今までこのシリーズを読んできたファンに対しては、さすがばらしちゃまずいだろう。
 けれど、シリーズを読んだことがない人のためには、あえてその特殊性故に読んで欲しいなぁとも思うし「王様の耳はロバの耳」とやりたいので。
 それを聞いても大丈夫、読んでみたいという奇特な方の為に、、、今から数行間をあけてネタバレ書いちゃうます。ここからあとは自己責任で読んで下さいね。



  (以下ネタバレ)



 実は、、主人公の銀次さん、二つの殺人事件に関わりますが、大チョンボ連発します。
 というよりは、二つの事件で二人の人物が死にますが、これ、銀次さんのミスで死にます。
 一つの事件では、銀次さんが重要な相談事を頼まれていたのに日常のあれこれに忙しくしていて、つい「うっかり」していた為にその相談者が殺されてしまいます。具体的にいえば、大店を勘当されていた息子たちが集まってやっていたお店で、その息子達から勘当を解くように頼まれていて、親のほうにもそれとなくあたりをつけて勘当をとく段取りをしていたのに、、、忙しくて「うっかり」ほったらかしにしていたら、その一人が殺されてしまいます。しかも、殺したほうも銀次さんの「うっかり」のために殺したようなものです。彼がきちんと仕事していれば起らない殺人事件で、彼の知り合いの息子さんたちが死んでしまいます。もう銀次さん、最悪です。
 もう一つの事件では、娘の結婚相手候補にあらぬ疑いをかけてしまった銀次さん、またしても捜査ミスで、彼が本当は犯人ではないのに信じてやらず追いつめて捕まえてしまいます。そして、彼は自殺してしまいます。娘の婚約者なのに。
 もう、なんていうか、ミステリーものの主人公の最終巻にしてもこれは異例中の異例ではないですか。こんな主人公見た事がない。しかも、、彼、最後の事件のほうでは、おそらく婚約者が自殺したあとに、ちょっとしたことで別に真犯人がいるかもとわかった時点では「真犯人に出てきてほしくないような」出てくると厄介だなぁと思ってしまうのです。
 うーん、こんな事ってありか? 確かに品行方正が売りの岡っ引きではないけれど、でも、捜査には一生懸命だし人のために頑張りたいという岡っ引きなのに、、、最後の最後でこんな展開でありなんでしょうか^^? しかも、いうほど反省しているようだけれど、人間ってのは失敗するもんだ、ってあっさり開きなおって自己完結してスッキリしちゃうし。
 なかなかに驚きの最終巻でした。
 変わったミステリ好きな人がいましたら、是非読んでみて下さい。 
 同じ作者のもう一つの人気シリーズ「髪結い伊左次捕物帳余話」のほうもちょっと心配になってきました。

虚ろ舟 泣きの銀次参之章 (講談社文庫)

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