小説・漫画好きの感想ブログ

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「小説フランス革命4 聖者の戦い」

「小説フランス革命4 聖者の戦い」
 小説で読むフランス革命の第四巻です。
 日本では、ローマ全史や、薔薇戦争、日本の戦国時代について詳しい人は数多くいるにも関わらず、何故だかフランス革命となると、いきなりみんな知識がなかったりする。「確かルイ16世のときだよね」「マリー・アントワネットがギロチンにかけられるんだよ」「人権宣言ってあったよね」「ベルバラってどこまで史実(もちろんオスカルはいない)?」とそこまでひどくはなくもずいぶんと知識があやふやになる傾向が強い。何故かは知らず、パリ・おフランス贔屓の日本国民がです。
 「ロペスピエールって何した人だっけ?」「ミラボー アンチキリストと言われてたの?」「タレイラン? 名前聞いたことないなぁ(グルメには有名だけれど)」「ネッケル?」「宗教改革もここに入るの?」レベルになってくる。信長や秀吉や家康については、こまごましたエピソードまで知っている歴史好きの人でも、そうだったりする。
 何故そうなのか?
答は単純でフランス物語という世界である意味最初の民衆革命について、概観出来る面白い小説が一つもなかったからである。ロペスピエール、ダントン、ミラボー、タレイラン、アメリカ帰りのラファイエット、ダムーラン、ジャコバン派の面々やフランスのカトリック教会の人々の意識や思想の流れ、権力闘争のあれこれが理解できる物語がなかったからである。
 そして、それを描けるだけの力量ある作家がいなかったからである。フランス革命は先に書いたように内容としての知名度が薄い。結論だけは知っているかも知れないが過程がわからない。だから、日本の戦国時代を書くように短く省略できない。なぜならば、日本人であれば、その時代のことやそれぞれのキャラクターをなんとなくのお約束で前提条件として知っている上で話が書けるが、この時代のこととなると、日本とはあまりに異質かつ価値観も違えば考え方も違う個人を描くところから始めなければならないという点で非常に難しいし、どうしても長くならざるを得ないからだ。なにせ、人権というものがまだ価値観として存在していない世界であるし、子供は単なる大人の小さいものでしかなくて役にたたない中途半端なものという世界なのだ。
 それだけに、力量のある、そしてこれが大事なことだが、それぞれのキャラクターを魅力的な人物として書くためにそれぞれカリカチュアして書ける、かき分けられる、そして感情にダイレクトに響く書き方が出来る作家が書かなければどうしようもないのがこのフランス革命というものなのである。
 そういう意味でたくさんのフランスを舞台にして小説を書いてきた佐藤賢一という小説家が十年以上の資料収集と構想の上に満を持して書き始めたこの「小説フランス革命」は読み応えがあるだけでなく、ある意味の(武力的なという意味ではなく)革命が進行中の日本では読む価値が非常に高い小説であるといえる。
 
 そして、この四巻では、その中で宗教対立の話が出てきます。
 莫大な既得権をもつ聖職者たちが、税金特権を剥奪され、土地や私有財産を奪われ、国家公務員になされていく中での激しい綱引きがタレイランとミラボーによって画策されます。自身も司教でありつつもまったく神を信仰していないタレイランにはわからない世界にミラボーが道筋をつけます。教会特有のプライドと、建前だけでなく信仰が神からの人間社会の序列のひな形であると考えるものもいる聖職者との戦いは、大難航します。ローマカトリック教会・バチカンは、フランス国内における教会の私有財産や土地はフランスのものではなくローマ法王のものであり、叙任権も含めて法王のものであると感じるし、それに自分の利益を考えて乗じていく聖職者たち。
 革命はただ単に国王や権力を倒すだけではなく文化や宗教、とくにこの時代では宗教もふくめた価値観の戦いなのだということがよくわかる四巻です。

聖者の戦い 小説フランス革命 4 (小説フランス革命) (集英社文庫)

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