「シャンハイムーン」 J・S・ローザン著 感想
「シャンハイムーン」 J・S・ローザン著 感想
現在の海外ミステリで10本人気シリーズを選べといわれたら筆頭に挙げるシリーズがこれ。アメリカのリトルチャイナを中心に、小柄な中国人女性ののリディアと、大柄な白人男性のビル・スミスがコンビを組んで事件を解決する探偵ものなんですが、このシリーズの何がすごいって、プロットがしっかりしているのと、一作ごとに主役が交代して語り手が交代するという離れ業をごく当たり前にやってくるのが凄い。
ビル・スミスが主人公のときは、彼の一人称で、かなりハードボイルドなタッチ。リディアが主人公のときは彼女の一人称で軽快に物語は進む。こんな無茶なことを平然とやってのける人は、他にローレンス・ブロックくらいしか知らない(彼の場合は、マットスカダーでシリアスをやり、泥棒探偵のバーニーでコミカルをやっていたが、あれとて作品は別々で同じ世界ですらない)。本当にこれは凄いなと思う。
しかし、芸が凄いだけでは人気シリーズになる筈もなく、プロット、物語も一級品の本シリーズ。今作ではなんとナチスドイツに負われたユダヤ人姉弟が上海で遭遇した六十年以上も前の事件の謎解きを行う。当時、上海で知らぬものはないと噂されたシャンハイムーンという伝説の首飾りはどこに消えたのか。持ち主であった姉弟はどこに消えたのか。この財宝を見つけたとおぼしき地点から謎の失踪をとげた中国の公務員は、窃盗の罪を犯したのか。それとも。次々と死体が増え続けるのは宝石の呪いか、はたまた家族の深すぎる闇の代償なのか。。。。と、いう事で、現在進行形の事件と当時の事件の謎ときをする彼女らの活躍は、今まで以上のスケールの大きさと、歴史的物語を消化出来るくらい物語の器が成長しているのだとひしひしと感じさせられた。絶賛の二文字以外に形容しようがない。これは手放しでお勧め。
追記。
アメリカ小説で男女一対のコンビということで、微妙ながらも恋のかけひきや進展などもあり、そのあたりも長年のファンには嬉しい次第。アメリカ小説で。。と形容したが、そのアメリカ小説にしてはシリーズ第十作にもなるのに、二人がいわゆるそういう関係にならないところも有り難い。映画化されても、この線は崩さないでいてくれるとよいのだが。。。
- 作者: S・J・ローザン,直良和美
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2011/09/29
- メディア: 文庫
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