小説・漫画好きの感想ブログ

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「小夜しぐれ  みをつくし料理帖」 高田郁著 感想 

 本年60冊目の紹介本です。
 
 高田郁さんの描く「みをつくし料理帖」シリーズ最新刊です。
 江戸の下町の定食屋、「つる屋」の女板前として暮らす少女、澪。大阪から流れてきた彼女には、彼女の女主人の息子を見つけて「天満一兆庵」を再興すること、そして幼なじみの無二の親友を吉原から助け出すこと、という二つのとてつもなく大きな希望があるのですが、いろいろな邪魔もあって、日常の生活ですらなかなかままなりません。そんな彼女のまわりで起こるあれこれの日常を、彼女が考案する(という設定の)数々の料理とともにハラハラドキドキしながら楽しむこのシリーズの醍醐味なんですが、、、、
 他の方のレビューにもある通りで、この巻では、そのバランスがちょっと崩れてきました。なんといえばいいのでしょう、物語がトントントンと進みすぎて、物語の厚みが足りないような気がします。物語全般でいえば、澪とおなじ発音の美緒という名前の伊勢屋の美少女の結婚話といい、最初の話で出てくるつる屋の主人・種市の過去と現在の苦悩の話など、苦い話も入っていますし、バランスでいえば澪の恋話とのバランスは悪くない筈です。けれど、澪本人のパートが割合と簡単に話が進み、不幸や逆境がないので苦みがたりなく感じます。
 普通の小説であればそれでも良かったのかも知れませんが、このみをつくしシリーズの場合は、主人公の澪が不幸にもいやがらせにも運命にも負けず、どんなに苦しくても辛抱して工夫して一歩一歩前進していくのが読みどころの一つでした。だから、今巻のように、周囲の人物がすべて澪に優しくなり、彼女の願い通りに色々なことが進んで行ってしまうと、いくら周囲に苦い事件があっても、なんだか物足りない気がしてしまうのではないかなと思われます。
 美緒が結婚相手として望んでやまなかった医者も澪に惚れてしまっている。上様の料理番の一人の榊原様ですら小娘には興味がない風に見えて、実は案外にロマンチストで澪にべた惚れになってしまっている。吉原のあさひ太夫の護り役ですらいつの間にか澪の為にあれこれ思うようになっている。強欲でわがままで傲慢だった吉原の大店の主人でさえ、そろばんずくの事とはいえ澪をスカウトして店を出させたいと厚遇を持ちかける。種市は彼女の雇い人でありながらゆくゆくは店を彼女に譲りたいといい、彼女の恋模様を応援する。生活そのものは全く変わらないとはいえ、これだけの好意に囲まれてしまう主人公だとちょっと盛り上がらない。
 澪には、もっと地道で、苦労しながらも幸せにむけて少しずつ進んで行く姿を見せて欲しいなと思ってしまいました。


 とはいえ、ラブラブモードな部分は嫌いではないです。こういう純情っぽい話も実は大好きで、最近週刊少年ジャンプで連載開始した岩本直輝の「magico」や、椎名軽穂の「君に届け」なんかも大好きだったりします。

小夜しぐれ (みをつくし料理帖)

小夜しぐれ (みをつくし料理帖)