「いっちばん」 畠中恵著 感想
本年342冊目の紹介本です。
(このブログをはじめて三年と数ヶ月ですが、だいたいのペース的には平均したら一日一冊のペースになります。漫画と小説が一日おきくらい。ずいぶんと読書量が落ちました。ペースが遅いのは読むスピードが落ちたのでしょうか。なんだか自分の頭の処理スピードが落ちたようです。昔みたいに電車に乗る時間が殆どなくなったのも影響があるかも知れませんが。。。)
おなじみの「しゃばけ」シリーズの文庫最新刊です。
今回も、盛りだくさんの内容ですが、一番気にいったのは、お隣の和菓子職人の栄吉の修業先でのあれこれを描いた「餡子は甘いか」という短編が一番ぐっと来ました。和菓子職人の跡取り息子ながら、和菓子作りの才能がまったくなく、どう頑張っても美味しいどころかまずい菓子しか作れない栄吉。彼は将来のためにと近くの老舗和菓子屋に修行に行くことになるのですが、そこでも全くお菓子作りの腕はあがらず、周囲からは砂糖が勿体ないとまで言われる始末。そこに泥棒が入るのだが、その泥棒のほうが味が分かるってことでその泥棒がその和菓子屋で修行を始めると、あっという間に栄吉よりも腕があがってしまい、どんどんと栄吉の居場所はなくなってゆきます。そんな中で、とうとう栄吉は和菓子作りを諦めようと覚悟をきめ、主人公で幼なじみの長崎屋若旦那一太郎のところへやってきて泣いて心中を吐露して、、という話です。このしゃばけのシリーズはほわほわとした雰囲気と挿し絵にだまされがちですが、案外とシビアな話が入って来ます。若旦那自身はお大尽の息子だけれども病弱でしょっちゅう病気で死にかけているし、周囲の人物も順風満帆に何もかもうまくいっている人物というのはありません。
それぞれのキャラクターは己の人生に懸命に生きているところがあって、そしてそれが決してハッピーエンド、簡単にはいかないことがきっちりと描かれています。このあたりの苦労話や人情話と甘くて優しい物語の案配がちょうどいいところがこのシリーズの人気の一つかも知れません。
あとの収録作品は、懐かしい人物のその後が描かれる「いっぷく」、天狗との知恵比べが落語のような「天狗のちよがみ」、そしてこれも懐かしい顔ですが白塗りのお嬢さんのその後の結婚話と店の浮沈をかけてのお話の「ひなのちよがみ」が収録されています。
巻末には、高橋留美子さんとの対談も収録されていました。
- 作者: 畠中恵
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/11/29
- メディア: 文庫
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