「秋の牢獄」 恒川光太郎著 感想
ただいまです。
今日も片付けなどしながら、いくつか紹介していきますね。かなり本がたまっていますからね^^
恒川光太郎の第三作品です。
恒川光太郎といえば、幻想的で、ファンタジックな世界と、どことなくノスタルジックな世界の融合が魅力の作家ですが、本作もその例に漏れず幻想的な作品が三つ入っています。「秋の牢獄」「神家没落」「幻は夜に成長する」の三作品です。
ただ、傾向は同じでも、内容の完成度や面白さという点でいうと、、、正直、前二作と比べるとパワーダウンしているかなぁという気がします。
タイトル作の「秋の牢獄」はケン・グリムウッドの「リプレイ」同様のタイムスリップを繰り返し、同じ日々を繰り返す主人公達を選んだ作品。この手の話は手垢がついているだけに、どういう落ちがつくのか、どういう捻りが入るのかと思いましたが、これはそのままです。続いて「神家没落」は、今回の三作品の中では一番面白かったです。見える人もいれば見えない人もいる不思議な家に囚われる男の話で、その家にとりこまれてしまった男は、日本各地を一定のサイクルで家ごと移動する羽目になります。その家の庭で取れる果物と井戸水で生活することはできますが世間とは隔絶した世界に住むことを余儀なくされます。いつしか、誰か身代わりをたてることで家から脱出することに成功する男ですが、、、その身代わりになった男が今度は、、というような話でなかなかにひねりが効いていました。ただ、これも「世にも奇妙な物語」に出てきそうな話といわれればなかなか否定できず、、、やっぱりこの「秋の牢獄」はパワーダウンかなと思います。
最後の「幻は夜に成長する」は人に幻を見せることができる能力をもった少女の話ですが、実に陰惨で、やりきれないものを残します。
三作品ともに、囚われる、閉じ込められる、自由を奪われるという共通項で括られた本作。デビュー作の「夜市」ほどにはノスタルジックでもなく、二作目の「雷のなる季節に」ほどはストーリーテリングが強くなく、と感じます。また、前二作にあったようなこの今僕たちがいる世界はこんな風にできているけれど、そこと地続きには不思議な別の世界があるんだというような妙なリアリティが薄く、ちょっと幻想の強度が弱まった感じが致します。
この次のハードカバー作品は南方の沖縄のような世界を舞台にした作品だったようなので、そちらが文庫落ちしたらまた読んでみたいと思います。
- 作者: 恒川光太郎
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/09/25
- メディア: 文庫
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