小説・漫画好きの感想ブログ

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「小説 琉球処分(上)(下)」  大城立裕著 感想  

 普天間問題が今再び注目を浴びているわけですが、、思い起こせば順風満帆に見えた民主党政権が大きくつまずいた原因こそがこの沖縄普天間基地問題でした。普天間基地ではなく海外、最低でも県外。この発言そのものは鳩山首相の数々の発言の中で、僕は高く評価しているんですが、あまりにも根回しや説得工作、官僚へも含めてリーダーシップがとれなさすぎて迷走してしまい、結果今では民主党政権が崖っぷちまで追い込まれることになったのは皆さんもご承知の通り。
 抑止力論争やら、中国の台頭、沖縄の複雑な利権問題が絡んでしまいましたが、素朴な一国民としては、防衛戦略上どうしてもその地点でないとだめだというのであれば致し方ないですが、そうでなければ九州であれ、兵庫県の北部であれ、対馬であれ、いっそのこと竹島だとか津島だとかどこかに負担配分するのはしごく全うなことだと思います。沖縄にだけすべてを押し付けてもいいとは決して思えません。どうもそのあたりが、今の世論は変なところにいってしまっていますが、沖縄だけに負担というのは大変な話で(しかも戦後はアメリカに統治されていた時代も長かったし、唯一の地上戦もあったし)、自分の県に基地が増えてもいいという前提で、沖縄からすべての基地とはいわず今回問題になったところだけでも移すのは決しておろかなことではないと思うのですが、、、まぁ皆さんご承知のように手続きやリーダーシップのなさや政争に使われて沖縄の人がまたかわいそうなことになるのはほぼ決定のようです。
 その沖縄を舞台にしたのがこの「琉球処分」という小説なのですが、ずいぶんと古い小説です。
 簡単にいうと、明治維新の時に琉球王国がどう日本に併合されていくかというのを、沖縄の人々を中心に描いている歴史もので、今までにない小説です。というのも、我々日本人は、えてして日本は単一民族国家ということで蝦夷のことや琉球のことは、特に琉球のことは沖縄として強く認知してしまっていて、その地がもともとは外国であり違う民族が住んでいたということを忘れているわけですが、それをきちんと思い出させてくれる小説が世の中にはあまりないですから、その点で今までにあまりない小説(厳密にいえば違うだろうけれど)という点でも貴重かと思います。
 明治維新当時の東京の、できあがったばかりの明治政府から官僚として派遣されてきた人物が、琉球王国の貴族や国王、親方たちとの間での交渉で書き残した、公式・非公式をあわせた詳細な資料。それをもとにしているので、かなり歴史に忠実な読み物となっています。そもそもが小説のために残された資料ではないですし、現地で戦争があったわけではありません。そのぶん、爽快な主人公が出てきたり、血沸き肉踊る冒険小説というものにはなっていませんが、史実を踏まえて描かれているからこそ逆に真実・事実の重みという点と、我々日本人がふだん意識していない沖縄はもともとは別の国であるということを強く意識させることにこの小説は成功しています。
 これを読むと、我々が普段思い込んでいる沖縄はまったくの思い込みに過ぎないという事がよくわかります。
 少なくとも、明治当たりの沖縄は、彼らの気分としてはまだまだ琉球であり、日本に所属しているという感覚は希薄であり、むしろ、中国のほうに親しみを持ち、主権も下手をすれば中国のほうにある(当時であれば清ですね)と考えている人々のほうが多かったことがわかります。また、当時あちらには福建から流れてきた、日本語はまったくしゃべられない人々がたくさんいる集落などもたくさんあったりして、国の感覚としてはむしろ中国のほうが近かったというのもよくわかります。僕自身も、一般常識として沖縄が二重外交を日本と中国の間で行っている事は知っていましたが、なんとなく、もっと日本寄りなんだと勘違いしていましたが、そうではなかったようです。彼の地は、完全な王権国家として、日本以上に封建的な、ある意味、過去の韓国的な厳しい身分制度があったようで、そのメンタリティーはむしろあちらに寄っていたのだということがよくわかります。
 日本国を単一の主権国として認めるように強く促されながらも、ひたすら国内での世論(といっても貴族階級のですが)の混乱の収拾につとめる琉球。とにかく時間の引き延ばしだけをする琉球。反対とも賛成とも言わない、回答の約束はしてもそれを反故にし続ける琉球。そして、一番にはそれを悪いことだとは思っていない琉球。日本に仕えながら必死の外交工作で中国にも出てきてもらいたがる琉球。日本政府からのお達しに一度はうなずきながら、国内の世論は反対なのでとなし崩し的に先送りする琉球。ある意味で、日本の今の沖縄とすごくかぶる部分があって、いいとか悪いとかではなくて、沖縄の、琉球のメンタリティーはそう大きくかわっていないのではないか。多くの日本人が、沖縄は日本と無邪気に思い込んでいる(本当に無邪気で征服したという感覚はまったくないのが、アイヌ問題とは違うところですね。言葉狩りもしたし沖縄後も使えなくしたのに、征服感が全くないのは幸せというべきか無邪気というべきか鈍感というべきか)我々の感覚は異様なのではないか。そんなことを考えさせてくれる小説ですし、普天間問題に揺れる今だからこそ読んでみるといい小説です。
 たぶん、感じるポイントは人それぞれだと思うのですが、僕にはけっこう重い一冊でした。
 沖縄の人たちは本当は日本のことをどう思っているんだろうなぁ、沖縄出身のタレントさんはたくさんいるし、沖縄に観光に僕たちはふらふらいくけれど、駐留米軍はどんどん問題は起こすし、米兵の問題はあとを経たないし、日本のことを味方というか本当に同じ国の人間だと心の奥底から認めてくれているのだろうか、なんてことを思ったりもしました。沖縄の方に意見をききたい本でもありました。

小説 琉球処分(上) (講談社文庫)

小説 琉球処分(上) (講談社文庫)


小説 琉球処分(下) (講談社文庫)

小説 琉球処分(下) (講談社文庫)