小説・漫画好きの感想ブログ

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「それってどうなの主義」斉藤美奈子著 感想

 これは批評スタイルの、エッセイと分類すべきでしょうか。
 時事問題について、コラム(エッセイというよりはコラムよりかな)を集めたもので、日本独特の付和雷同というか同調圧力、他の意見は全部なしにして全員がわーーーっと一つの意見に傾いていこうとするところを、「それってどうなのよ」と斉藤美奈子さんが突っ込みをいれるというスタイルの本です。作中には、こんな風にあります。
一、「それってどうなの」は違和感の表明である。
一、「それってどうなの」は頭を冷やす氷嚢である。
一、「それってどうなの」は暴走を止めるブレーキである。
一、「それってどうなの」は引き返す勇気である。
 と。
 
 で、どんなことに突っ込みが入れられているかというと「空襲」と「空爆」はどう違うのか? とか「集団連行」と「拉致」はいったい何がどう違うのか、国旗掲揚と国歌斉唱で国論がどうして分かれるのか(当時はまだ国歌が定められておらず、国旗も法律的には定まっていなかった)、靖国に首相が参拝することで右往左往マスコミが揺れるのはどういうことだ。朝日新聞の論調が右に左にぶれるのは何故か、などなど今読み返してみるとなるほど当時はそうだったなぁ、今もまだそのことについては答えが出ていないよなぁなどとうなずくことしきりであったりでなかなか面白いです。
 政治的な風刺以外にも、外国語の翻訳での異常なありえない口調や、古典としてありがたがられている「雪国」ではなぜ方言を使っていないのかということをからかってみたりというような部分もあり、そういうのも含めて、初読の方でしたが、楽しませていただきました。
 政治風刺とか辛口コラムというと場合によっては、自己顕示欲と自分が絶対正しいという論調にしばしば閉口させられるものなんですが、この方にはそれがなくて読みやすくもありました。たぶんこれはこの方のバランス感覚の良さなんでしょう。それが出ているのが育児についてのお話。経歴などをみる限りでは、この方はフェミニズム系の論客のようですが、育児をする男性、それもとくとくとそれを語る男性(今どきの言葉でいうと育メンとでも言うのかな)について、なんだかなぁと思うと同時に、この感覚は女性が社会進出を言い出したときに男性が感じたのと同じなんだろうと彼女は書きます。これこそが自分の見方だけでなく逆の立場からも見れる彼女のバランス感覚の良さを表していると思います。
 バランスの良い論客が減っている昨今だけに貴重な方かも知れません。
 朝日新聞に載ってたホメオパシーについての学術会議の様子や、靖国神社に参拝するしないでヒステリックになる右翼的な産経新聞の様子とか見ていると、どうにも片方の論理だけが横行する風な風潮がますます過激に助長されているような気がします。もちろん、特定の方が特定の論陣をはることは構わないのですが、相対する論調のすべてを一切認めない、自分の主張の根拠は挙げるけれど相手側の論調の根拠はただ駄目だという論調が最近は当たり前になってきて、本当に民度が下がってきているなあと思うので。 

それってどうなの主義 (文春文庫)

それってどうなの主義 (文春文庫)