小説・漫画好きの感想ブログ

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「八朔の雪―みをつくし料理帖」 高田郁著 

 食べるのが好き。
 人情ものが好き。
 時代ものが好き。
 そういう読み手にとっては、まさに幸せ至福の時を過ごせることを約束してくれる一冊です。
 主人公は、もともとは京都の老舗の料理屋さんで下働きだった少女の、澪。彼女はひょんなことから、そのときのご寮さんと一緒に二人で江戸に暮らす事になりました。しかも、ご寮さんは体調を崩して病に伏しており、澪がそば屋の下働きとして稼ぐ駄賃だけが唯一の収入という、貧しい長屋暮らしです。もともとは大店のご寮さんとその下女だったわけですが、一足早く江戸で支店を開いていたはずの息子の店は既になく、二人は行くあてもなくなり、結果長屋暮らしとなっていたのでした。
 そんな澪が、ふとしたきっかけで料理を作ったところ(もちろん味付けが関西と関東では全く違うのと客層が違うのでそこらへんに気づいていって工夫をしていくというありがちなエピソードもちやんとあります)、それが好評を博してだんだんと料理人としての才能を開花させ、まわりの人をまきこんで成長していくというお話です。メインの筋はそういう話ですが、、これがまぁNHKの朝の連ドラででもやりそうなくらい、主人公がけなげで、いい子で、献身的で、なんて言うんでしょうかね、これでもかこれでもかと感動を誘いにかかるんです。
 巻末にレシピまで載っているので、でてくる料理の一つ一つがちゃんと美味しいのでしょうけれど、それ以上に、八の字のたれ眉毛のこの少女がふびんでかわいそうで、それでも負けない健気さについつい応援したくなってしまうのです。あんまりこういうタイプの少女が主人公の作品って読まないから、よけいに新鮮でした。漫画とか、現代劇だとこういう設定もよくあるだろうし、少女がとてもかわいかったりもするんでしょうけれど、この小説においてはそういう要素は全くなしで、澪は、ただただ料理のことに真剣で、とても腕が良い、媚び的な部分のない少女として描かれます。そのあたりも大変好感が持てる仕上がりです。
 あと、内容は置くとして文章がとても読みやすい文体で書かれていますので、時代劇にちょっと抵抗があったり、初心者だと
いう方にもオススメできる作品かと思います。とても面白かったです。

八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)

八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)