小説・漫画好きの感想ブログ

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「ビート 警視庁強行犯係・樋口顕」 今野敏著 感想

 常に人を気遣い、波風をたてることを嫌う警視庁の切れ者。非体育会系乗りなのに、上司に気にいられ、キャリアのように昇進していく男、樋口。本当は家族のことだったり、同僚のことだったりで結構うじうじ悩むのに、常に人の目にはポーカーフェイスに映る男、樋口。そんな強行犯係の警視庁強行犯係・樋口顕の事件簿その3です。
 前ふりでも書いたように、この樋口係長は、優秀な刑事ではあるものの、とても繊細で考え込むたちで気配りの人で、人と諍う事が苦手というちょっと特殊な中間管理職の刑事さんなのです。普通、小説の主人公を張るような刑事といえば、型破りか、腕力勝負か、常にクールか、カミソリのようなのか、とにかくアクが強くて強烈なキャラクターばかりですが、この樋口係長はとにかく目立つのが嫌というタイプで、今回も狂言回し的に登場はするものの、常に同僚や上司や家族のことで思い悩んでおります。
 しかし、その悩みもある意味では大人しいもので、前作のような「妻が拉致誘拐される」というような緊迫状況のものではなく、今回のメインの登場人物の島崎の抱えることになってしまった悩みや葛藤と比べてもわりと穏やかなもので、どちらかというと今回のお話は、樋口のお話というよりは島崎のお話でした。
 島崎は、警視庁二課に所属する詐欺やらなにやらを相対する部署で、今回はそもそもとある銀行の不正調査をしておりましたが、その銀行に大学柔道部の後輩で、なおかつ島崎の長男に柔道を教えていた男がいたことから彼の人生は狂い始めます。警察の内偵をしったその男は巧妙な罠で、警察の捜査情報を島崎から聞き出し、それをネタにまた新たな情報提供を迫り、ついにはガサ入れを失敗に終わらせてしまいます。もともとが真面目な島崎と息子はそれを苦に病んでいたところ、その男が殺されるという事件が勃発。島崎は、当初こそ、二人の繋がりが発覚するのを恐れていたものの、そのうち、殺害犯人は島崎家の中の嫌われ者と思っている次男の仕業ではないかという風に思い込んでしまいます。事実、次男の英二はそのつもりで被害者とも会っているのです。
 さて、本当に銀行員を殺したのは息子なのか、もしそうであればとるべき父親としてのけじめは何なのか。迷いに迷い、迷走する刑事。刑事ドラマで、ミステリーでありながらも、前作同様この物語は「家族とは何か」をテーマにしております。今回もステレオタイプなところは多分にあったけれど、読み応えは十分、納得のできばえでした。
 

ビート―警視庁強行犯係・樋口顕 (新潮文庫)

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