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「三国志」四巻 宮城谷昌光著 感想

 文庫版で読み返している宮城谷版三国志。 
 この四巻では、曹操が徐州を取る取らないの話と、呂布董卓を倒して勤王の精神を発揮しようとするも王允ともども再び追い落とされるあたりが描かれています。もちろん、宮城谷三国志ということで超蝉のくだりはカット。まったくありません。そのかわり、呂布も裏切り者で暴虐で残酷でというステロタイプな描写はなく、むしろ世間的には呂布はいっとき世論的には一番帝への忠誠心が強い将軍と思われていたこと、また事実関係として曹操やら袁術などと違って本当の意味で皇帝に将軍職や官位を授けられた正当な将軍だったというし実を明らかにしていく。まぁ、運命的には陳宮と組んで動いて最後は曹操に殺されるのは同じなのですが。 
 ところで、小説としてのこの宮城谷版三国志の感想なんですが、やはりどう転んで贔屓目に見てみてもあまりに些末な事柄やそれぞれの端役武将や官吏の詳細エピソードにこだわりすぎて、ダイナミックさやら、話の大きな流れを追っていって大盛り上がりしていく「物語」としての生命力・熱が薄いのが否めません。端的にいうと退屈してしまう、だれてしまう部分が多すぎる気がします。
 曹操が天才であったということだけは伝わってくるんですが、妙に事績をもちあげて文人としての感性も褒めちぎるところ多しなのですが、じゃあ人格はどうだったかというと非道なところもどんどん突き放したように描かれる。こうなってくると主力としての魅力がいまひとつ出てこないし、通例の「三国志」なら対極に描かれるはずの劉備などはどうして生き残っているのかわからない雑魚のようなタッチで描かれるので、これも感情移入しずらい。劉備に対しては魯鈍であり頭脳を使わない品性がない人間というスタンスだから仕方ないのかも知れないが、こうなってくると、物語としての爆発的な魅力が出づらい。
 スタートするまでは、あの宮城谷さんが三国志を描くという事でものすごく期待したしワクワクしていたんだけれどなぁ。ハードカバーのほうの八巻もそろそろ出るはずだが、どうなのだろう。宮城谷作品にしては、三国志にしては盛り上がりが足りないような気がするのだが。作品としていまひとつ失敗したなぁと御本人が思っておられるのなら、あと何十巻も続けなければならないこの三国志は途中で切り上げてもらって、彼が得意としており本当に面白いと思える春秋戦国時代とかの物語にいってもらっても、ファンとしては納得するかと思うのですが、、どうでしょう?
(同時並行的に読んでいたのが、はちゃめちゃで笑わせてくれる酒見賢一の「泣き虫弱虫諸葛孔明」だったのも悪いのかも知れないけれど)

三国志〈第4巻〉 (文春文庫)

三国志〈第4巻〉 (文春文庫)