小説・漫画好きの感想ブログ

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「カポネ(下)」 佐藤賢一著 感想

 アル・カポネ物語の後半戦です。
 前半で、カポネといえばアンタッチャブルのエリオット・ネスが好敵手になるはずなのに、それがまったく出てこないと首をひねっていたらば後半はまるまるエリオット・ネス篇。トリッキーです。
 しかも、普通の小説だと、上下巻で敵味方からの描写となるとそれぞれが同じ時間軸で動いていたときの事を描いて対比していくのがセオリーですが、この「カポネ」の場合は、下巻はカポネの一連の出来事の終わったあとのネスが主人公で、格好良く戦った記憶どころからネスのだめだめっぷりがひたすら描かれるという変則的な物語展開。カポネを相対的によりよく理解させるためか、はたまたカポネの器量の大きさと比較するためか、この小説でのエリオット・ネスはもうどうしようもないダメ人間なんです。
 見た目はクールでタフで押し出しもいい二枚目で、正義の名の下にときにやりすぎなきらいもあるくらいの熱血漢なんですが、内面はというとプライドばかり高くて、自制心もなければ名誉欲に取り憑かれ、女性にもだらしがないしモラルもないしともう最悪極まる人間となっております。そんな彼ですから、最初こそちやほやされたものの、後に重要ポストにつけられても大失敗をやらかし、何度も結婚と離婚を繰り返し、アル中になってというていたらく。救いようのないダメ人減です。普通で考えれば法の側、正義の側にたつ彼は正当派ヒーローであるべきなんでしょうが、まったく違っていたことが描かれます。これを読むと、もうエリオット・ネスときいて、かっこいい颯爽としたイメージや、あの映画版での乳母車のシーンなんかは決して浮かばなくなってしまうでしょう。
 佐藤賢一の小説の主人公でここまで情けない性格といえば、「カエサルを撃て」のカエサル以来でしょうか。本当にどうしようもない、夢見がちで利己的で思慮の浅い人間としてネスは描かれます。
 しかも、最後の最後で、零落しきったネスのもとに新聞記者が現れ「アンタッチャブル」が本にされると、その後はそれがベストセラー、テレビ化。それが全米で放映されると、本人の実像とは関係ないとろで、彼は大ヒーローとして祭り上げられるという皮肉のきいたドンデン返しも用意されていたりと最後まで異色な作品でした。どんな強いヒーローや歴史上の人物であろうと、人間的な弱い部分も描いていくというのが佐藤賢一のスタイルだといえばそれはそうなんですが、これはその中でもその傾向が特に強く、しかも片方の主人公がかっこわるいままという異色な作品でした。

カポネ 下 (角川文庫)

カポネ 下 (角川文庫)