「切れない糸」 坂木司著 感想
鳥井と坂木が活躍する、日常の謎系の「ひきこもり探偵シリーズ」の著者による、こちらも日常の謎系列のミスりです。主人公はクリーニング店の息子の大学生、新井和也。「新井」と「洗い」をかけた「アライクリーニング」店の跡取り息子ながら、本人にはそんな気は全然なかったのですが、突然父親が亡くなった為に就職もまだ決まっていなかったこともあり、そのあとを継ぐことになります。
普通の就職と違って、行き来するのは町内のお得意さんのところと、クリーニング工場のみ。予想していた未来とは違って小さなエリアで生活することになった彼は、最初はクリーニングの仕事にそれほど気合いも入っていなかったのだけれど、そんな彼が幾つかの事件を経ながら成長していくところも読みどころとなっており、ミステリものでありながら、誰かが死んだり悪質な事件が起こったりはしない「日常の謎」系の典型的な作品となっている。
さて、この作品が秀逸なのは、そんな成長中のまだまだ頼りない彼のところに持ち込まれる日常の謎の一つ一つを、ホームズ役である友人の沢田とともに彼は解いていくのだが(というよりは解くというか見抜くのは沢田ばかりだが)、その事件のプロットやトリックや解決がクリーニング店という舞台なしでは成立しないところで、よく練り込まれた上の舞台設定だったんだろうなぁと感心します。
あと特徴的なのは前の「ひきこもり探偵」シリーズもそうでしたが、この坂木さんのタッチはとても繊細で優しくいところ。読んでいて、とても優しい気分になります。この作品を読むと自然とまわりにも優しくしたくなります。
また、マニア的な読みどころとしては、作品の章タイトルが映画のもじりになっていて、クリーニング店の専属アイロン師で映画好きのシゲさんとあいまって、映画ファンなら思わずニヤリとしてしまいます。
- 作者: 坂木司
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2009/07/05
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 7回
- この商品を含むブログ (41件) を見る