「ユダヤ警官同盟」(下) マイケル・シェイボン著
以前に上巻を紹介したことがあったが、その後編。
各方面でも、2008年度のヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞というSFの主要三賞を制覇。エドガー賞長篇賞、ハメット賞最終候補。ということでしたが、、、上巻の前半の冗舌さと後半のミステリ部分の収束具合からすると、、、個人的にはそこまで大絶賛というほどでもありませんでした。
世間的にはかなり受けが良かった様ですが、そもそもどうしてこれがSFジャンルでの評価がそんなにあるのかが疑問というか首をひねらざるを得ませんでした。確かにパラレルワールド的な話ではあるのだろうし、超能力者も登場はするのですが、、、普通にミステリなのではないか、それもコード通りのハードボイルド路線なのでは(のわりにはラストはとってもアメリカ・ハリウッド映画的なんですが)と思わざるを得ませんでした。
そういう意味ではミステリとしては悪くはありません。中年男の哀愁も漂っているし、親友と二人で危険な捜査につっこんでいく主人公はまぁあまりにも向こう見ずで無謀だけれど、信念をもって事にあたるし嫌いではありません。
ただ、そこまでの大絶賛とはいきませんでした。
ただ、この作品のミステリとしての評価が大絶賛にならないことについては、自分がユダヤ人のメンタリティに対しての理解が浅いから共感がしづらいからというのがあるからかも知れません。この物語は、故郷もなく(この作品世界においてはイスラエルは建国されていない)アラスカの奥地に一部自治区を許されてるだけのユダヤ人コミュニティが舞台なんですが、その背景にシオニスとの強烈な故郷の地への渇仰や宗教的熱狂などがあるので、ここに入り込めなかったのがちょっと乗り切れなかった原因かも知れません。
自分の国がない、何千年も放浪と迫害を受け続ける状態というのが日本人である自分には、観念の中でしか、それでもあくまで漠然とした概念でしかイメージしきれないのです。このあたりは自分の想像力の限界を示しているのですが、そこまでのひりひりするような圧倒的な望郷の念というのが、自分が故郷を出る、なくすという個人的なことだったり数百年タームならイメージが湧くのですが、ここまで長いとなかなか手にとれるようなリアリティがなかったです。現実のイスラエル・パレスチナの問題などを見ればわかるように、聖書の時代からユダヤ人たちは「ペリシテ人(バレスチナ人)」と戦ってるわけですが、、ここまでいくと二千年以上の土地を巡る争いが個人個人のDNAに刻み込まれた社会や個人というのが、実感として小説の中では感じにくかったです。現実のイスラエルとバレスチナとの戦いは、目の前で人が死に家族が殺され、先祖が戦いとイメージが湧くのですが、隔離された目の前に敵がいないコミュニティでもなお、ここまで約束の地がテーマとしてあるのが評価の分かれ目になりました。
ただ、映画にしたらなかなか面白そうではあります。
というより、途中のアクションシーンや最後のあたりは映画をかなり意識しているかもと思いました。
- 作者: マイケルシェイボン,黒原敏行
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/04/25
- メディア: 文庫
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