「検死審問 インクエスト」 パーシヴァル・ワイルド著
レビューを書こうとするのがとても難しいのだけれど、古き良きアメリカ的なおおらかなミステリ。今はやりの法廷ものといってもいいし、叙述ものといってもいいのだけれど、そういうジャンル分けよりも、ミステリがまだミステリという読み物として楽しかった頃のミステリといった方がいいお話。
全編が、法廷記録と証言者の宣誓文書からなるミステリで、ミセス・ベネットという人気女流作家の家で起きた殺人事件についてのお話。ミステリものの「隔離された別荘」ものといえばそういうたぐいの筋立て。
しかし、事件は既に起こっており、裁判員たちは当然ながら、その現場で実際に事件に遭遇するわけではありません。あくまで事件発生後のお話として、審問に集まります。ただし、審問については日本の法システムには馴染みのないシステムなので、ちょっと事前知識がいります。この作品世界には検死審問というシステムがあって、そこで陪審員たちが決めるのは、あくまでもその事件が、殺人事件であったのか事故であったのか、殺人なのは間違いがないとしていったいどういう方法で殺されて死因は何だったのかを確定するだけだということ。
だから本当の意味でいえば犯人探しなどはしなくてもよく、死因がなんだったのかを調べるだけでいいわけですが、この作品では証人や陪審員達がそれぞれひたすらに、一見何の脈絡もなく日当目当てに無駄話をし続けていると、最後になってその中から事件の真実が見えてくるという構成になっていて、そのあたりがトリッキーというかなんというか。ちょっと他にない味わいがあります。
たくさん言葉をしゃべればしゃべるほど、証言記録のページ数が増えれば増えるほどみんながもらえる日当が多くなって、評決までに時間がかかればかかるほど日にちがかかればかかるほどギャラが出るという仕組みは日本からすると信じられないシステムですが、まぁなんていうか昔の海外だとこういうのもありなのか? とちょっとほのぼのするところもあって面白いです。
全然パターンや中身は違うんだけれど、「くまのプーさん」のA・A・ミルンが書いた「赤い館の未秘密」とかああいった感じのミステリを想起させる一冊でした。
- 作者: パーシヴァルワイルド,Percival Wilde,越前敏弥
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/02
- メディア: 文庫
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