小説・漫画好きの感想ブログ

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「リオ 警視庁強行犯係・樋口顕」 今野敏著

 警察小説であるとともに、違った見方をすれば気恥ずかしくなるようなロマンスものでもあります。
 物語の始まりは、とある火曜日の午後、誰も住んでいないはずの部屋で起こった殺人事件を、その階の住人と新聞の集金人が見つけるところから幕があきます。誰も住んでいないはずの部屋からの物音におそるおそる部屋を確認した二人は、そこから飛び出してくるとびきりの美少女とその後に残された撲殺死体を発見します。当然のことながら、重要参考人として捜査対象に挙がってくる謎の美少女ですが、その翌週の火曜日に起きた、パブ店主殺人事件の現場でも彼女の姿が目撃され容疑はますます濃くなるとともに、彼女の正体と被害者達の実像が徐々に明らかになってゆきます。彼女の家庭の複雑な事情、学校生活、彼女が出入りしていた場所で密かに行われていたデートクラブ売春の実態、、、、捜査にあたる主人公の樋口は全共闘世代の一つ下の世代で、倫理観と責任感が人一倍強く対人関係を常に気にする刑事らしくない刑事。しかし、この樋口が捜査の進展とともに、徐々に今まで自覚していなかった自分に気付き始めます。
 そんなところに第三の殺人事件が発生。現場で再びリオの姿が。。。。
 ということで、ストーリーとしてはしごく真っ当ストレートなミステリです。しかし、主人公の樋口の性格があまりに今までの主人公刑事らしくないところや、本気で美少女リオに惚れ込んでいってしまうところなど、実際にはそういう関係になる話ではないのですが、それだからこそかえって純情なロマンスのような感じで良かったです。自分は子供がいないから、登場人物でいえば氏家に近いポジションにいますが、でも、この主人公の心持ちにはとても共感できますし、「頑張れ」と思わずエールを送りたくなってしまいました。好きになるなんてあり得ないと思いつつも、確かに心を動かされ、でも家庭を本気で大事に思っていて少女売春や子供達を喰いものにする犯罪や世の中の乱れに心痛めて怒りを覚えるこの主人公は今までになかったタイプで面白かったです。
 警視庁といえば、今日も放送していた「相棒」ではないけれど、いかにもな刑事さんがいるイメージですがこれはそれらのどれとも違っていてオリジナリティはありました。
 ただ、女性読者からするとこの「リオ」の評価はどんなものなんでしょうかねぇ。主人公の樋口はやっぱりただの「オヤジ」なんでしょうか、それとも頭が固いだけの人? ストーリーに出てくる男性陣の視線や思惑がやっぱり若い子ならなんでもいいのか的な話で嫌悪感? そのあたり是非知りたい一冊でした。
 

リオ―警視庁強行犯係・樋口顕 (新潮文庫)

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