小説・漫画好きの感想ブログ

小説・漫画好きの感想ブログ

「アンフィニッシュト」 古処誠二著

 自衛隊を舞台にしたミステリ、「アンノウン」の著者が放つシリーズ第二弾作品がこの「アンフィニッシュト」で、前作と同じく、自衛隊内部の調査部の朝香二尉と野上三曹が活躍します。
 今回の事件現場は、沖縄と本土を結ぶ東シナ海にある絶海の孤島基地。そこは過疎が進む村で数十名の村民と四十二名の自衛隊員のみが住む島で、住民と自衛官の全員がそれぞれ顔見知りといってもいいような特殊なところです。その特殊な島の基地で、訓練中に64式小銃が紛失するというありえない事件が起こり、彼らが調査に赴きます。
 果たして、衆人環視の中で紛失した小銃の行方は? そもそもどうやって小銃は紛失したのか? 内部犯行なのか、それとも島に現れたという謎の不審者による敵国のスパイ活動なのか? 前代未聞の事態の中で二人は、ごく一部の隊員しか知らないその小銃紛失事件の謎を追います。。。
 さて。
 異例の自衛隊小説ですが、今回も読後感は悪くないです。読後自衛隊員に心情的に応援のエールをあげたくなるくらいです。実際、我々が知らない自衛隊の内部状況とか訓練状況とかを読んでいると、こりゃあ鬱屈も溜まるだろうし、そもそも実戦の時には果たしてどれだけの能力が発揮できるのだろうかと不安になります。一例を挙げれば、自衛隊の空自の射撃訓練においては、一人の射手に対して一人の助手がついて弾薬の替えや射撃の補助をし、それを上司たちが見るというスタイルになるそうですが、これはそもそもかつて自衛隊の訓練中に一人の隊員がいきなり銃を上司にむけて発砲して一人の上官が死亡したことを契機に、射手が急な動きをしないように徹底的に監視し事故が起きないようにするためだそうです。そして、弾薬は極度に少なく、一回の練習で数発撃つだけになるとのこと。もちろん、実戦ではそんなわけにもいかないし、普段ほとんど実弾を撃ったこともなくて本番でできるのかと甚だ疑問です。また、自衛隊は現行法律下では基地の外には小銃を持ち出すことが出来ず、例えば基地周囲に不審者や侵入者がいたとしても、銃を使えずに棍棒で戦うしかないそうです。敵が武装していようとも、です。その割には地域住民の多くからは忌み嫌われたり抗議活動に恒常的にさらされるというのだから、自衛隊員は本当に大変です。
 (だからこそ、一部の隊員がウィニーとかで情報流出させたり、ハニートラップにひっかかる馬鹿な隊員がいたり、それこそ空自のトップが田母神さんのような人だったりするのが厄介だし全体にとっては大迷惑な話なんでしょうね、きっと)。
 話を戻してそんな自衛隊の守る基地の中でのあり得ない事件が果たしてどんな意味をもち、どんな結末を迎えるのか、というのは興味津々な話で興味深く読みました。

 ただ、、、ここからはちょっとネタバレになっちゃうんですが、前作と同じで状況が状況だけにだいたいの犯罪理由や、話の筋が分かってしまうのが苦しいところですね。これが別の国のスパイが潜入してという話だったり、テロリストとの戦いとかになるんならあれなんですが、この作者のスタンスだとこういう結論に達するんだとわかるところに予定調和通りにたどり着いてしまうのが残念でした。キャラ造詣もいいし、小説を通して自衛隊の問題点や日常をわかりやすく偏見なく描いているいい小説だけに、ミステリとして考えるからかも知れないけれどそこだけがちょっと残念です。

アンフィニッシュト (文春文庫)

アンフィニッシュト (文春文庫)


 
追記:奇しくも今日は真珠湾攻撃の日だそうです。リメンバー・パールハーバーなんて言われる日ですけれど、すっかり自分は忘れておりました。さるび〜さんのところでも書きましたが、日本は戦争に関しては無意識なのか意識的なのか戦争を意識しないよう実感しないように生活しているように思います。自分は平和主義者ですが、平和であるためにしっかりと歴史事実や現実を見ることは大事だと思います。