小説・漫画好きの感想ブログ

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「殺人遁走曲」 菊地秀行著

 設定が面白い一冊。
 主人公は、一匹狼の殺し屋。今回も、とある街の汚職事件に関わる市長を密かに暗殺するため、敵対する勢力のヤクザに雇われて街にやってきた。しかし、その彼の泊まっていたホテルの隣室の男が自殺騒ぎを起こす。
 それもたちの悪いことに、主人公に殺してくれと大声で頼み続けるのだ。殺し屋だけに、目立つことはしたくないので、やむなく彼はなだめすかしつつ彼から距離を置こうとするが、頑として彼は「殺してくれ」と迫ってくる。そのくせ、「人を殺すのは良くない」と主人公の殺しをなんとか妨害しようとする。
 自殺志願者の男、桂木の主張はこうだ。「自分は死にたいと思っているから、殺されても問題ない。でも、死にたいと思っていない相手を殺すのは犯罪だ。絶対許されない罪だ」。かなり無茶だが筋は通る。それに対して主人公は「やかましい。邪魔をするなら殺すぞ」というが、殺して欲しいのがその男。議論が噛み合ないこと甚だしい。
 とかなんとか掛け合い漫才みたいな事をやっているうちに、更に事態は錯綜としてきて、、ということで結構軽く読めるミステリでした。菊地秀行にミステリという形容詞がつくことも滅多にない話ですが、これはある意味ちゃんとミステリになっています。
 菊地秀行作品の特徴であるような、絶世の美人も美女も出て来ませんし、妖異も魔界も関わってきません、超能力や古代格闘技も出て来ません、新宿にも立ち寄りません。ということで、ごく普通(まぁ職業・殺し屋なんですが)の人々が出てくるコメディよりのミステリとして成立しています。
 作品全体からは、松田優作さんの匂いもちょっとしたりなどして、まずまず楽しめます。