小説・漫画好きの感想ブログ

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「長恨歌 不夜城完結編」 馳星周著

 タイトル通り馳氏のデビュー作でもある「不夜城」の三部作の完結編ともなる作品。
 馳氏自体は、「不夜城」はそれ自体で完結しているので、一作で構わなかったがあまりに人気が高かったために書かざるを得なかったと述べているようですが、読ませてもらった方としては十分に楽しめたし堪能させていただいたので満足です。
 さて。
 「不夜城」自体を知らない人の為にもざっと背景を説明すると、不夜城の舞台は新宿歌舞伎町。バブル末期あたりの台湾・韓国・中国をそして日本のヤクザたちを中心にした裏社会の中でのノワールものがこの「不夜城」シリーズの舞台です。そして、その三部作の中心人物なが劉健一と呼ばれる台湾人と日本人のハーフで、闇社会でのたくる闇の支配者です。ただし、第一作での彼は、まだ若く力が足らず、とにかく情念と闇を秘めた青年という感じで、主役ではあるものの運命に翻弄され悲哀と怒りと憎しみに引きずり回される青年でした。しかし、それがだんだんに闇に同化し、悪鬼となり、非情の支配者になっていきます。
 その健一が表立って歌舞伎町を支配していた時代から数年、今作の主人公である武基浩はそんな背景を知らず、麻薬取引をしている自分たちのボスが殺された事件を調べていくうちに健一と出会い、また運命のイタズラか自分が中国に残してきたはずの小文とも出会い、だんだんと狂気と暴力の世界で運命を狂わせていくのがこの物語です。臆病で、自分の本当の正体を知られないようにうまく立ち回っていた武が、健一の暗闇に取り込まれたようにどんどんと出口のない泥沼に入っていく姿と、彼を通して自分の姿を見ていた健一の三部作を通しての最終地点が描かれる本書はまさに読み応えたっぷりでした。
 主人公の武は、読み手によってはとても愚かしく自己中心な人物に見えるかも知れませんが、自分はとてもこの武にシンパシーを覚えました。本当なら守れたはずの、約束を守りさえすれば助けられたはずの女性の為であれば、たとえその女性が今どんな境遇にいても助けたいと思うし、それがどれだけ馬鹿な行為であれ、それがまた当の相手からすれば滑稽で意味のない行為であっても、或いはまたその女性に騙され利用されることがわかっていたとしても、やはり本当に好きになってしまった女性のためならばそれが分かっていても最後までつきあうというのは、とてもよくわかる心情だし共感できました。←下手したらストーカーやら犯罪者スレスレだけれど^^

長恨歌  不夜城完結編 (角川文庫)

長恨歌 不夜城完結編 (角川文庫)


 
 追記:グインサーガシリーズの最新刊「豹頭王の苦悩」での主人公グインのシルヴィアへの態度を読んだあとだからでしょうか。とても強く、最後の武の愛情(或いは罪悪感からの贖罪の気持ち?)にシンパシーを覚えてしまいました。