「ボルへスと不死のオランウータン」 ヴァリニッシモ著
本書は非常にマニアックなので、たぶん一般受けは間違いなくしないと思います。
幻想小説であり、なおかつ文学的な衒学趣味を前面に押し出しているので、そういうのが好きな人もしくはここでモチーフに繰り返し出てくるエドガー・アラン・ポーの「黄金虫」を筆頭とする諸作品や、ボルヘス、ラブクラフトの「クトゥルー」シリーズをよく読んでいないと(読んでいても好みによっては)さっぱりと面白くないと思いますのでご注意下さい。
メインのストーリーは一応、ミステリーに見せかけた、本一冊まるごとが大枠で叙述トリックで信頼できない語り手のもとに進行する殺人事件となります。しかし、アランポーの研究学会で殺されることになる男への、容疑者となる人物たちからの犯行動機そのものが浮世離れしているし、登場人物が全員奇矯な人物もしくは世間からずれた人たちばかりであるという点で、ミステリとしての作中での進行はほとんど全くといっていいほど気にしなくていいし、しても無駄です。物語的な面白さは犯行時の状況証拠について二転三転する推理と言葉遊びにあり、本当の犯罪の事実は最後の最後にしか明かされないというものですから、饒舌な脱線につぐ脱線の文学談義に興味がわかなければもう絶望的にどうでもよくなります。
ただ、作者の名誉のために言うならばそうではあるけれど、最後の最後で明かされるさまざまな伏線の回収や事件をもう一度見直していこうとする時に生じる手の込んだ仕込みはけっこう凝っているしプロットはよく練られています。言葉の一つ一つをすごく選んで仕込んであるなぁと感心させられる出来でした。そこは十分評価ラインにのるレベルでした。
ということで、本書は読み手を選びます。というか、読み手によって評価は大きくかわるでしょう。語りすぎるとネタバレになるのですが、神秘主義やカバラの秘密、旧神や古きものども、などのいわゆるそれ系の単語が続出する中での推理というか哲学的お遊びも含まれている本書は、最初に挙げたような作家さんが好きな人たちにはツボ、そうでない人からは駄作となるでしょう。
ボルヘスと不死のオランウータン (扶桑社ミステリー ウ 31-1)
- 作者: ルイス・フェルナンド・ヴェリッシモ,栗原百代
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2008/06/28
- メディア: 文庫
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