小説・漫画好きの感想ブログ

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「ちんぷんかん」 畠中恵著 

 江戸の若旦那が主人公の「しゃばけ」シリーズの文庫最新刊です。
 実家のある日本橋一帯を焼き尽くす大火に巻きこまれ、とうとう三途の川縁を彷徨う羽目になった若旦那とかわいい鳴家達の三途の川縁でのお話に、まだ若き日の半妖の母の恋物語、兄の松之助の縁談話、そして小春という桜の花の精との切ない話。いつものように若旦那の一太郎のまわりで起きるあれこれが語られます。
 今回は、全般的に「別れ」がテーマになっている作品が多く、切なさが漂いますが、実にいい短編集に仕上がっています。一太郎の優しさは相変わらず、人間・妖しに関わらず優しく、特に桜の花びらの精である小春に対しての優しさは格別のものがあるのですが、その話の中で一太郎は、自分と小春の関係が、まさに佐助たち妖怪と自分の関係であることに気がつきます。
 命のスケールがまったく違う生き物がたまたま同じ時間にいるだけであること、自分もいずれは先に死んでしまうこと、そういうことに気がつかされてしまいます。これは一太郎の驚きであると同時に、読み手もついうっかり忘れていたことだということに気がつかされるでしょう。彼らの物語を一から読んでいて材料は揃っていたけれど、彼らはずっと一緒であるかのように考えてしまいがちですが、人間である一太郎はいくら妖怪の血が混じっているとはいえ、他の妖怪たちと違って早くに死んでしまうことは確実なのです。
 そんなことに気がついてしまうこの一冊は、他の別れがテーマのような作品と並べるととても切ないものですが、それでも実によい作品であります。「しゃばけ」シリーズは、長篇よりもこういう短篇のほうが、楽しい話もいいけれどちょっとほろっとくる話がとても素晴らしいと再認識致しました。
 
 追記:ちんぷんかんって何が語源だろうとちょっと調べてみましたら、中国語かも知れないようですね。儒者のいうことをわけがわからないとしたという説もありますが、中国語の「聴不看不(テンプゥカンプゥ)」(見ても聴いても判らない)が転じたと言う説のほうが個人的には面白いなと思います。

ちんぷんかん (新潮文庫)

ちんぷんかん (新潮文庫)