小説・漫画好きの感想ブログ

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「銀の匙」8巻 荒川弘著 感想

銀の匙。最新刊です。
北海道の蝦夷農高校を舞台にした、大人気の青春学園ものです。
ここに通う学生達は、日々酪農の座学と実技、そしてそれぞれの実家の牧場や農場の手伝いに呼び出される等、普通の高校生とはまったく違う生活を送ります。早朝から深夜まで、さまざまな当番や飼育動物の世話が割り当てられ、本当に過酷です。とはいえ、そこは体力のありあまる高校生達、それなりに楽しく、青春を謳歌しているのですが、今回物語は大きく動きます。
いや、大きく動くというのは、普通の高校生を基準にした感覚なのかも知れませんが、実は、とある登場人物の実家が倒産し離農、息子である登場人物は退学してそのまま働きに出ることになります。規模拡大に投資した矢先に父親が死んでしまい借金が返せなくなって、という注釈が入りますが、なかなかハードな展開です。しかし、本当にハードだなと思ったのは、それを受けての周囲の感想が、それはもう仕方がないね、といたってあっさりとしたもの。主人公がそれを理解できなくてまわりにきけば、酪農家をしていて借金がなくて安全な暮らしをしている家は一軒もないという状況。親の代で借金が返せれば御の字。農業をするには何をするにも金がかかるから、親子二代にわたって借金を返すのはザラという現実。
今は政府が保護してくれているけれど、これで安い海外産の農産物が入って来たらどうなるのか、といきなりTPP問題にまで話が発展する状況が高校生たちの口から語られます。
また今巻では、そういうような背景から家を継ぐことが当たり前のように語られる農家けれど、本当はやりたいことが別にあるんだと親とぶつかりながら初めて自分の主張を口にする子供も出て来ます。確かにギャグを交えつつの、青春学園漫画なんだけれど、本当にきちんと人生のビターな部分も描いていて、いい漫画だなと思います。
この漫画の第一巻が出たとき、将来この漫画は学園もののスタンダードになるかもね、とレビューを書きました。けれど、内心では、こういうのは世間に受けいれられるかなぁと少し不安でした。が、これを受け入れて、こういう漫画がきちんと漫画大賞を受賞するのは日本の子供達の漫画文化の成熟具合はなかなか大したもんじゃないか、とちょっと嬉しいです。

銀の匙 Silver Spoon 8 (少年サンデーコミックス)

銀の匙 Silver Spoon 8 (少年サンデーコミックス)


銀の匙 Silver Spoon 1 (少年サンデーコミックス)

銀の匙 Silver Spoon 1 (少年サンデーコミックス)