小説・漫画好きの感想ブログ

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村上春樹「雨天炎天」 感想 

村上春樹の旅行記をひさびさに再読しました。
ギリシア正教の聖地・ギリシアのアトスと、トルコを旅した記録です。
今をさること、二十数年前の旅行記ですが、タフでハードです。最近の村上春樹からすると信じられないかも知れませんが、やっている旅のハードさは往年の椎名誠とかわりません。
前半で彼がめぐるアトス島は先にも書きましたがギリシア正教の聖地です。ここは、カソリックの総本山のバチカンと違って、競技に厳しくて禁欲的なギリシア正教の聖地というだけあって、島は女人禁制、食堂やカフェもなく、自給自足の暮らしの修道院だけの島です。ここに村上春樹がカメラマンたちと巡礼地をめぐる旅に出ます。
さきに述べたようなハードな世界だけに、島の中はギリシア正教のルールで動いています。深夜の12時を基準にしたビザンティン・タイムで動き、信徒以外は参加できる行事も少なく、簡易宿泊所に泊めてれたりという外界との接触はあるものの基本、何百年とかわらぬ生活を日々繰り返す修道院の生活がそこにあります。移動手段は徒歩のみ、天候の急変は日常茶飯事、日が沈むと狼さえ出ててくる。それであっても、修道院の門は容赦なく時間になったら閉まっていて二度と開かない。そういう世界で彼等の暮らしは成立しています。
そこを村上春樹が歩いてゆきます。
旅はままならないもので、トラブルは続出。巡礼の道は間違える、考えられないほど酷い食事も出てくる。。。例えば黴びてしまったパンをふやかして食べる黴パンと豆のスープと、食べたら死んでしまいそうに塩辛いフェットチーズなど。。。そうとうところを旅します。
甘いものが苦手だといっている村上春樹が、旅の途中からあまりの疲労に甘いものが美味しく感じてくるくらいの旅で、身体の摩耗と精神の摩耗が手に取るように感じられます。アトス三点セットと彼が名付けた甘いお菓子ルクミと甘いギリシアコーヒー、そしてウゾー。僕も読んでいて、これが食べたくてたまらなくなりました。
やむなく、甘いコーヒーとワインで代用しましたが、読んでいるとその世界に引き込まれるような旅の描写でした。最近の村上春樹さんはさっぱり旅本を出さなくなりましたが、また書いて欲しいものです。

雨天炎天―ギリシャ・トルコ辺境紀行 (新潮文庫)

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