小説・漫画好きの感想ブログ

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「格闘するものに○」 三浦しをん著 感想

 最近読書日記をさぼっていたので、少しそういうのを書いてみようと思います。
 なんて改めた挨拶から始まるのは、自信がないからです。目的をもった文章を書くというのはいつまでたっても緊張するものだし、目的をもった文章を書くというのは大概はそれに身体が順応するまではひどいできばえになるということが経験則から分かっているので、言ってみればちょっとした予防線のようなものです。
 FBには、毎日のようにつらつらと色々な文章を書いているから、さぞ物を書くのが好きというか自然体なのだろうと思っている方もおられると思いますが、自分の心情を書くとか失敗談を赤裸々に語るというのは関西人にとっては別段に難しい話ではなく、技術も何もいらない日常の延長戦上のことなので苦にもなりませんが、こと目的がある文章となるとやっぱりそれは難しいのです。
 特に、読書日記っていうのはこの本を紹介したい、こういう本でしたよと感想を伝えたいというのが前提にあるわけで、もっといえば面白かった本の紹介の時には「この本面白かったから是非読んで楽しんで欲しいな。できたらその面白さを共有したいな」というような願望があるので、ちょっとした色気が出てしまって更に難しいのです。
 なので、暫くそういうのを書いてなかった今日みたいな日にそれをやると、たいていはあまりいい出来映えにはなりません。けれど、書き続けないとますます腕は錆び付いていくわけで、どこかで今日のように、えいやっと書き始めなければなりません。そして、この前書きのような逃げ口上も、いつまでもえんえんと終わらないという訳にはいきません。終わりのない物語がないように始まらない物語はありません。そして本筋を始めるためには、そろそろ前書き的なお話は終了です。できれば、読んでみたいなと思わせる感想が書ければ嬉しいものです。

 「格闘するものに○」 三浦しをん

 本書は、「舟を編む」で今年度の本屋大賞を取られた三浦しをんさんのデビュー作です。
 三浦しをんさんという方が作家として優れており、大成功した方なのは「まほろ駅前多田便利軒」で直木賞を受賞したことや、「語り始めた私の彼は」で山本周五郎賞を受賞したこと、また或いは、文楽を舞台にした文芸作品も数多くあることで有名かと思います。
 しかしながら、僕の中では、三浦しをんさんという方には、作家であると同時に「どうしようもないくらいにオタクで、少女趣味でジャンルを問わない漫画読みで、ボーイズラブの妄想が好きでビジュアル系バンドのおっかけが大好きで、そして平素をどんな服で過ごすかは別としてファッションが大好きな女の子」というイメージが強くあります。それは、彼女のエッセイ作品の多くを読めばわかることなのですが、赤裸々に語れば語るほど彼女はそういう人間で、いうなればオタク的には「こちら側」にいる人間なのです。
 もちろん、代表作に見られるような文学性の高い作品群も多くありますが、素の彼女の生活エッセイを読むと、そこにはちょっと別物の彼女がおり、言うなれば村上春樹の「小説」と「エッセイ」とのギャップのような楽しみ(彼もまたずいぶんとイメージが違う部分がある)があり、そういうところを含めて僕的には人間的にも大好きな作家さんの一人です。
 さて、話を戻して本書「格闘するものに○」についてですが、本書は、その「文学性」と「私生活的要素」二つが綺麗に融合している作品です。よく、デビュー作にはその作家のすべてが詰まっているなどという言い方をしますが、本書はまさにそれで彼女の素の部分と文学性が見事に融和していて、デビュー作とは思えない完成度(今読めば若書きの部分や冗舌な表現も多々出てくる部分はありますが)で楽しめる一作となっています。

 主人公の藤堂加南子は東京のとある大学の文学部の四年生(早稲田がモデルでしょう)で、彼女は、同級生の砂子と二木くんと一緒に就職活動をしております。潰しのきかない文学部の学生のこと、もともとが就職活動には不向きだし、そもそもがビジネスマンには向いていないのは仕方ありません。が、漫画や小説が好きだというただその一点で出版社を中心に就職活動をしているのと、彼女自身のあまりのおおざっぱさとルーズさのために就職活動はお世辞にもはかばかしいとはいえないスピードでしかすすみません。むしろ脱線の部分ばかりが長いです。
 そんな彼女の日常が、かなり年上の書家の先生との恋の行方や、男友達の意外な告白、弟の家出、実家の義母との少し歪んだ家族生活などを通して描かれる本作はある意味で現代のビルディング小説です。特に、随所に出てくる道具立ての可笑しさを取り除いてみれば、家族との相克や将来の夢や社会との関わりに恋愛ものと近代文学の私小説的要素が全てつまっているまさに文学作品なわけで、そのあたりが僕がここには彼女の全てが詰まっていると思う所以です。
 割合に薄めの作品なので、ほんの数時間程度で読み終わる程度の量でしかないのですが、主人公の女子大生が奮闘する姿には思わず頬が緩んでしまいますし、物語が終わるとなんだか自分の青春時代も一つ終わったような妙な寂しさも覚える本書は、三浦しをんの入門書としては最適な本だと思います。
 僕がこの本を最初に読んだのは、彼女がデビューした直後くらいのことです。とある読書交換会で頂き物として頂いたのですが、結構衝撃を受けた覚えがあります。残念なのはその本をいただいた方が、今ではひどく有名なミステリ畑の解説者になってしまわれているのですが、なんといってこの本を僕に紹介してくれたのかを失念しまっていることでしょうか。
 今考えるとちょっと勿体ないことをしてしまいました。

・・・ということで案の定、全然出来が悪い読書感想&本の紹介でした。やっぱり、これは毎日のように続けないと書けないもののようです。

格闘する者に○ (新潮文庫)

格闘する者に○ (新潮文庫)