小説・漫画好きの感想ブログ

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「HUNTER×HUNTER 30巻」 富樫義博著 感想

【感動的な話として蟻編決着です】
 休載に次ぐ休載を続けていたHUNTER×HUNTERの最新刊です。
 高度な戦闘能力と念能力を身につけた蟻の王との闘いは、ハンター協会会長ネテロが小型核爆弾を仕込んだ自分自身の自爆によって決着の時を迎えようとしていた。忠誠心にあつい王の護衛軍のピトーはゴンによって倒され、プフとユピーは自らの身体を王に差し出した後に核爆弾の中に仕込まれていた毒によって命を落としてゆく。
 圧倒的な力をもって生き残った王メルエムも、その毒には勝てずに自らの死期を悟る。全ての生物の頂点に立つ彼が最後に求めるものは、、、、。ということで、蟻編の事実上の最終回がこの巻になりますが、最後はなんとも美しい恋物語の様相を見せて物語は終わります。 
 正直、王のその悟りきって達観した様子と愛に気がついたという風情は、それまでに彼と彼の部下がなしたこと、その為に失われた何百万もの人命を考えると素直に頷けるものではありません。なにせ彼らが最後に選び最後の時間をそれにすべてあてたいと願った「恋人との時間や恋人の存在」を彼と彼の部下はその何百万倍も奪ってきたのですから。でも、それでいても、そこにはやはり感動するものがあって、人間ってつくづく目の前のロマンチックなドラマに弱いのだなと変なところで感心してしまいました。僕も王にコムギの居場所を尋ねられるパーム同様に、「お前にそんなことを頼まれたくない」と叫びたい心境ながら、そこまでの気持ちを見せられるとやむを得ないなと納得してまいました。
 主人公であるゴンやキルアたちの闘いや苦悩、自己犠牲でさえも、全ては王の決断の引き立て役的なものにしかならない状況ではあるのにも関わらずです。そして、この蟻編のラストでは、かつて人間だったものが蟻として新種の生命体になってしまったもののうち、ごく少数ながら過去の記憶をもっている者達の後日談も語られます。このあたりがさきほどの恋愛ものとしてのオチと相まって、ちょっとほろりとさせてくれて、冨樫さんやるなぁと素直に感心致します。昔「幽遊白書」の頃はひたすら強い敵、かっこいい敵と戦うことがメインで、そういうほろりとした話があんまりなかったのに比べると、ずいぶんいい風に余裕が出てきたなぁと思います。
 あと、この人の漫画の場合、週刊誌連載時と比べると、明らかに描き込みや絵の密度が補正されてくるので、コミックス版を買ってもお得な気がします。最近では彼に限らず原稿描きの綺麗なネームが雑誌掲載されたりしますが、それをきちんと補正してくるところでプラス評価です(そもそもそういう状態で雑誌に載せるのもどうかと思いますが、、、)。
 ということで、30巻で蟻編は終了、物語はネテロ会長死後の会長選挙と、ゴンの身体を治すため、キルアが自らの自宅に幽閉されている兄弟のもとに走るという話になります。

HUNTER×HUNTER 30 (ジャンプコミックス)

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