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「楊令伝」10巻  坡陀の章 北方謙三著 感想 


 「楊令伝」文庫最新刊も、もいよいよ10巻です。
 ついに、宋が金国によって滅亡させられたところから始まるこの第10巻では、宋なき後の中華全体の各勢力の思惑が描かれます。
かつての宋を引き継ぐように見せながらも、秘密機関の青蓮寺の思惑によって構築される新しい宋。かつての金軍の将軍たちが各地に作った軍閥のような各地の勢力。宋の首都を落としながらも直接統治までは手が回らない金。領土を広げつつも自分たちの国を確固たるものにする地歩固めと広域貿易の道を探る梁山泊。それぞれがそれぞれの思惑の中で動きます。

 梁山泊の主要メンバー達も、かつての宋軍や禁軍との過酷な戦いの後で少しずつ別の戦いにシフトを移していきます。新しい交易路を切り開く者、遠い異国への密使として旅立つ者、国内を安定させるために巡視する者、各地の勢力の思惑を探る諜報戦に従事する者、兵をひたすら鍛え来るべき戦いに備える者、交易のための施設や拠点作りに奔走する者、内政に力を注ぐ者、世代交代もある中で彼らもまたそれぞれの道を歩みます。
 その中で、梁山泊の一人一人の変質も描かれます。かつての梁山泊は、宗という理不尽で巨大な敵に立ち向かう為に、志をもった兵士であり武装集団であることがまず求められてました。そして、それは強烈な仲間意識や自己犠牲の精神が色濃い組織でした。それが、長い戦いの果てに宗主力の禁軍を倒し、宋が倒れていく中で変質し、薄くなっていく部分も実にリアルに描かれています。
 仲間内でのいざこざや恋愛、仲違いも描かれますし、「老い」による死や頑迷さが出てくるキャラクターも描かれます。これぞまさに大河ドラマ・長編群像劇の醍醐味です。もともとの本家中国の梁山泊の物語というのは、武侠小説ですからそういう部分は少ないのですが、この北方版はそういうところも楽しませてくれます。
 次巻では、物語の舞台はシルクロードのとば口の西夏に移ります。

楊令伝 10 坡陀の章 (集英社文庫)

楊令伝 10 坡陀の章 (集英社文庫)