「ジョジョの奇妙な冒険 OVER HEAVEN」西尾維新・荒木飛呂彦著 感想
いまだに人気絶頂の漫画「ジョジョの奇妙な冒険」のオリジナルノベライズ版です。
書くのは、ライトノベル界の巨星にして、現在も週刊少年ジャンプの漫画原作をこなす西尾維新。そして、主人公は「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッッッッ!!!!!!」の最強の悪役吸血鬼ディオとくれば、これは読まなくてはなりません。
物語は、ディオの独り語り、独白の日記という形式で進められます。
時代としては、ジョジョの奇妙な冒険・第三部(つまりはジョセフ・ジョースターと、空条承太朗が主人公サイドの、スタンドが初めて登場した話)の頃のサイドストーリーとなっており、アクションが中心ではなく、あくまでディオの手記という形でディオが自らの半生を振り返る物語になっております。
百年に渡る長い長い海底での眠りから覚めたディオは、自らの使命として「天国」へ行く方法を探していました。吸血鬼としての能力を高め、エンヤ婆と出会う事でスタンドの力を手に入れた彼は、彼なりの考察で「天国」へ行くためにその全ての力を使おうとしていたのです。ジャンプ本編では、復活した邪悪な魔王として描かれていたディオが、実は、世界征服も闇の帝国も目指しておらず、ただただ天国を目指していたというのが本書です。勿論、ジョースターの血統の発見や、憎むべきジョースター家の血を引く男達が自らの部下を次々と倒し、日本から遠路はるばるエジプトまで冒険につぐ冒険、戦いに継ぐ戦いの末に自らの目標を阻害し続けるというのは、ジャンプ本編と矛盾はありません。
しかし、ここでのディオは、やや内省的で、実際のところジョースターのことなどどちらでもよく、彼らが動かなければこちらから干渉することはないというスタンスだったという事になっています。というよりはむしろ、こちらはこちらでやるべきこと、目指していることがあるのに、どうしてわざわざやってくるのか、こちらの貴重な人材を次々と殺し続けてくれるのか、たった一人の女の病気のために、数十人の人間を殺し続けるジョースター家こそ悪ではないのかというくらいの勢いです。
そして、彼らとの戦いの裏で、ディオは、第四部、第五部、第六部などに繋がる伏線的なことをしっかりとしていきます。このあたりは、実に見事な物語本編の再構成で、ジョジョのシリーズを全部読んでいる人間にはニヤリとさせられるところがたくさん出てきます(勿論、台詞なども「おまえは今まで食べたパンの枚数を覚えているか?」などの名台詞も出てきます)。
アクションシーンがあまりないこと、新しい主人公、新しい幽波紋をもった能力者を主人公にした話ではないということをマイナスに見るむきも多いかとは思います。が、漫画史に残る敵役のディオを主人公にして、こういう味付けの小説が出たというのも物語の多様性の一つとして十二分にありではないかなと僕は思います。賛否両論はありかと思いますが、これ以外の外伝が出ないわけではないしノベライゼーションもなくはないわけで、これも一つのジョジョとして手に取って欲しいと思います。
ちなみにネタバレにならないように伏せて書いていますが、最後の最後のディオの独白はあえてああいう矛盾した形になっていると思うのですが、皆さんはどう思われますか? ネタバレが解禁になる頃、どこかでああでもないこうでもないと議論が起きるのが楽しみです。
JOJO’S BIZARRE ADVENTURE OVER HEAVEN
- 作者: 西尾維新,荒木飛呂彦
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2011/12/16
- メディア: 単行本
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